唐鎌:実際に仲よくなった鮨職人さんなどとご飯を食べに行って、お話を伺うこともあります。

 あくまで個人的にお話を伺ったいくつかの店の例を踏まえますと、「生産性=付加価値÷労働投入」で言えば、分母(=労働投入)は大きく変わらず、分子(=付加価値)を大きく引き上げている例が多数あると感じました。

 店側の弁では「仕入れる魚の値段も上がっているし、アルバイトの時給も上がっている」ということですが、それでは説明できないくらい単価が上がっているのも事実です。

 この点ははっきりと「インバウンドの財布に合わせている」と話すお店もありますし、日本人と扱いを変えるために、インバウンド専用の予約日を設けているというお店もあります。そうしてマージンが上乗せされた結果、統計上は生産性が改善します。

 しかし、これは多くの人が期待している「生産性の改善」とは、きっと違うでしょう。

円が弱くなった日本は
外国人に食い荒らされる

河野:近年のインバウンドの拡大は、日本経済にとって手放しで喜んではいけない現象だと私は考えてきました。

 ヨーロッパで暮らす人が日本に旅行すると、あまりの安さに、まるでタイムマシンに乗って25年前、30年前の世界に舞い戻った感覚を抱くわけです。このギャップの背景には、「生産性が上がっているのに、実質賃金がまったく上がっていない」という日本特有の状況があります。

 たとえば、日本よりも生産性の改善が劣るヨーロッパ諸国でも、実質賃金はアメリカほどではないにせよ、着実に改善しています。つまり、日本だけが「生産性の向上」と「実質賃金の上昇」がかみ合っていないのです。

 そして、長年にわたって物価が上がらなかった理由も、多くのエコノミストが言うように「生産性が上がらなかったから、実質賃金が上がらず、物価が上がらなかった」のではなく、「生産性が上がっても、賃金が上がらなかったから、その分、物価上昇が抑えられてきた」というのが真の因果関係だったのではないでしょうか。