
河野龍太郎
トランプ関税や対ロ制裁により、ドルを中心とする国際金融システムの正統性に揺らぎが生じている。中国をはじめとする新興国は、既存秩序に代わる多極的通貨体制や新たな国際決済通貨構想を模索している。IMF(国際通貨基金)体制の原点に立ち返るかのように、バンコール構想の復権が注目されつつある。ドル覇権は終わりの始まりに差しかかったのではないか。

米大統領経済諮問委員会のミラン委員長が、米国の安全保障や国際金融制度など「グローバル公共財」の費用分担を他国に求めた講演は、国際秩序の再設計に一石を投じる。ただ、米国は覇権システムから多大な利益を得る一方で、それを回収して国内で再分配するのに失敗していることが見過ごされている。問題の本質は、他国の費用分担ではない。

国境変更を事実上容認するかのような対ロシア宥和策でウクライナ戦争終結を目指すトランプ政権。ナショナリズム擁護者として注目されるヨラム・ハゾニーは、国家の主権と民族の自決を重視するが、ロシアのウクライナ侵攻はこの理念とどう整合するのか。トランプ外交に大きな影響を与えたとされるハゾニーの論考を紹介する。

日本銀行は過去の円高局面において金融緩和の強化で対応してきた。一方、今回の円安局面での金融引き締めには慎重な姿勢を崩しておらず、低い実質金利水準を維持している。円安放置は輸入インフレによる物価上昇をもたらし、消費を抑制する。結果として、持続的な物価の安定を損ねることになり、それは日銀法の理念に抵触するのではないか。

トランプ氏が米国大統領の座に返り咲く。彼が掲げる経済政策は、いずれも米経済のインフレを高進させる。連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースは鈍化するどころか25年に利上げに転じる可能性さえある。ドル高円安の進行が見込まれ、日本のインフレは上振れしそうだ。インフレのため、日本銀行は12月にも追加利上げに踏み切るだろう。

日本銀行の利上げと量的引き締め開始が契機となった8月初旬の急激な円高・株安は日銀の利上げが早すぎたから起きたのではない。遅すぎたからである。市場が落ちつけば日銀は年内に利上げを再開するだろう。政策金利が1%に達するまではおおむね3カ月に1回ペースで引き上げるとみている。

日本銀行は7月の政策決定会合で国債購入の減額、量的引き締めを開始する。量的緩和、国債の大量購入は長期金利低下を目的に開始されたが、量的引き締めは長期金利が急上昇することがないよう進められ、日銀が大量に国債を保有するストック効果ゆえに現実に長期金利は上昇しにくい。それは超円安にさいなまれ続けることにつながる。

日本銀行は基調的な消費者物価上昇率が2026年度までには目標とする2%に達すると見通している。自然利子率をマイナス0.5%とみて利上げの着地点を1.5%と予想する。ただ、利上げをしても日銀による国債購入を減額し、長期金利が市場機能を取り戻さなければ円安傾向に歯止めがかからない恐れがある。

マイナス金利解除後の日本銀行の次なる利上げは9月、早ければ7月だろう。人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化させている。共に、2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている。

新型コロナウイルス感染拡大による経済活動抑制が終わり、拡大すると予想された個人消費。しかし、現実には足踏み状態が続いている。停滞をもたらした主因は“異次元緩和”、日銀の超金融緩和政策の継続にある。そのメカニズムを解説する。

日本銀行が「賃上げから物価高への波及」が十分でないことを強調し始めた。これはマイナス金利解除をしないことを意味するのではなく、むしろその準備を示すものだ。弊害の大きなマイナス金利を解除した後も、超低金利政策の継続が不可欠であると、日銀は今後、主張するのではないか。

2023年春闘における賃上げ率は定昇込みで3.6%。しかし、3%台の物価上昇率が続いており実質賃金はマイナスである。人手不足が継続する中、2%台のインフレとベアは定着しそうだが、労働移動を妨げる財政政策の先にあるのは「低成長、高インフレ」である。

日本銀行が7月28日の金融政策決定会合でYCCの「柔軟化」を決めた。背景にあるのは、日銀が当初想定していた以上のインフレ基調の定着だ。エネルギー価格高騰の影響が剥落した後も、賃上げの価格転嫁などが進みインフレ率2%以上が定着する。来年4月にはマイナス金利も撤廃されるだろう。「柔軟化」はその布石である。

岸田文雄政権は異次元の少子化対策を掲げる。財源は増税ではなく、歳出削減と医療保険など社会保険料の引き上げとなりそうである。皮肉なことに、社会保険料の引き上げがこれまで少子化を助長してきたことは否めない。

シリコンバレー銀行破綻に端を発した金融不安は中央銀行による流動性大量供給などで落ち着きつつある。しかし、流動性の供給はインフレ抑制に逆行する。こうした齟齬がなぜ起きたのか、これから何をもたらすのかを検証する。

日本銀行の次期総裁に、経済学者の植田和男氏を起用する人事案が固まった。だが、実は新体制発足前の3月にも、日銀が政策修正に動く可能性は決して否定できない。「植田新総裁」誕生前後のシナリオを大展望した。

次期日本銀行総裁を雨宮正佳副総裁に打診と報道された。2月中には正式な人事案が国会に提示される。次期総裁の下で、13年1月に結ばれた政府・日銀の共同声明が見直される公算は十分にある。金融政策の柔軟化が進み、異次元緩和の修正が進むだろう。しかし、それは金融政策の正常化を意味するものではない。

日本経済の長期停滞をもたらした最大の要因は、企業がもうかってもため込んで、人的資本投資や無形資産投資を怠り、賃上げに消極的だったことにある。では、企業にそうさせた要因は何だったのか。分析・検証する。

欧米主要国ほどではないが、日本国民も物価高に苦しんでいる。しかし、物価の番人たる日本銀行は、安定的な2%インフレ目標の達成が見通せないとして異次元緩和を続ける。黒田東彦日本銀行総裁の最後の賭けともいえるこの金融政策が、財政インフレの引き金を引くことはないのか、検証した。

先進国は自国の国債を安全資産として供給できる。それゆえ、危機の際に中央銀行によるファイナンスで拡張財政を実施できる。長期停滞にあえぐ日本が新興国へと転落していくとき、財政健全化が進んでいないと何が起きるのか。
