
トキは出生の秘密を知っていた
傅に「説明せえ」と問い詰められた三之丞は仏頂面で思いがけないことを言い出した。
「無理ですよ今更。いつも兄上ばかりで何も教わっていない。声すらかけてもらったことがない三男坊が都合よく駆り出されたって」
ここまでは自身の気持ちを正直に言っただけなので、よく言ったと思う。問題はそのあとだ。
「なのにおトキは――。長男でもない。雨清水家の子どもでもないのに目をかけられて。なぜかと思ったらなんのことはない。うちの子だった」
あーあ言っちゃった。
この場面、三之丞の前で、タエ、傅、トキが3人並んでいるのだ。なんだかこれも三之丞にはつらいだろう。
ところがトキはこう言う。
「もう知っちょるけん」
え?
トキの実の両親が傅とタエであることをとっくに知っていたというのだ。
誰に聞いたわけでもなく自然とそうなのではないかと思っていたと。ああ、まあ、司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)が明らかに何か隠している感じだったしなあ。司之介の傅に対する嫉妬心も、フミのタエへの対抗心もわりとあからさまだったので、聡い人ならわかるかもしれない。
それを受けて傅は意外なことを言う。
「じゃったら言おう。おまえはわしとおタエの子ではない。松野司之介と松野フミの子じゃ。生まれたときから。そしてこれからもずーっと」
これは誰もがわかる、傅の精一杯の誠意。トキをあたたかく育んできた松野夫妻リスペクトである。
「はい。そのことも知っちょります」とトキも肯定する。
血のつながった本当の父と娘があえて、お互い他人のフリをする。この誠意いっぱいの強がりと、義理人情を大事にする気持ち。気高い。
ふたりはあのおかゆのやりとりで十分、父娘のやりとりをしたのだ。
高石あかりの運命をすべて受け入れるかのような表情がかっこいい。
ちなみに、傅は、このやりとりの前に、「だったら私もよそで育ちたかったです」と三之丞に言われたとき、息も絶え絶え手を伸ばし、やさしく頬に触れている。本日、公開された板垣李光人のインタビューによると、板垣の芝居に堤が応えた結果だとか。相手にしていないようで愛情があったことがわかるシーンになった。
にっこり微笑むと傅は静かにタエの膝の上に倒れた。
場面が変わってびっくり。