「不便なこと」や「イラッとすること」が発想の原点!
あえて「逆張り」で、ほかの人が考えない部分に着目する
――その後も、いろいろな発明をされていますよね。
小川コータ フリック入力の次に特許を取得したのが、「人生最後の財布FINALE UT」という商品です。コロナ禍が始まった2020年ごろ、ライブが軒並み中止となり、時間ができたので、自分用に発明した財布を商品化することにしたんです。
――どんな特徴を持つ財布ですか?
小川コータ とにかく薄い財布です。コイン10枚前後とお札、カードを同時に入れて折りたたんでも、厚さはわずか10ミリ程度にしかなりません。僕がこれを発明したのは、一般的な二つ折り財布をポケットに入れるとパンツが膨らみ、見た目が格好悪くなるのが嫌だったからです。
薄い財布を作りたかったのではなく、「下半身のシルエットをすっきりさせたい」というのが、発明のきっかけでした。これが思いがけずヒットし、2021年には発明品の商品化・販売を行う「EDISON LAB」というプロジェクトを立ち上げることにしたんです。
――「こうなったらいいのに」という願望が“コータ流”の発明の出発点なのですね。
小川コータ そうですね。日常生活を送っていると、さまざまな「不便なこと」や「イラッとすること」がありますよね。それを解決するためにアイデアを捻り、自分が本当に使いたいものを作る。音楽も同じで、自分が聴きたいと思う音楽を作っています。
――なるほど。EDISON LABは、財布以外にバッグやスーツケースも商品化していますが、これらも「不便」や「イラッ」を解消するという発想から生まれたのですか?
小川コータ はい。たとえば「シューベルト」というバッグは、使わないときにはシューッとベルトが吸い込まれる発明品です。その特徴をそのまま、商品の名前にしました(笑)。これを発明したのも、背負わないときはベルトが邪魔で、イラッとすることが多かったからです。
――“コータ流”の発明メソッドは、ほかにもありますか?
小川コータ 「逆張り」の発想で課題を探すことです。ほかの人が考えそうなことではなく、むしろ考えない部分を、あえて考えるようにしています。
たとえば、バッグについて発明しようと思ったとき、普通は本体部分について考えるところを、「逆張り」でベルト部分について考える。ベルト部分にしても、普通は使い勝手を考えるので、使わないときのことを考えてみるわけです。そうすれば「使わないときは邪魔だ」という課題が導き出されます。なら、吸い込めばいいでしょ、というわけです。
また、「FLIP」というスーツケースは、一般的な横開きではなく、フロント部分が上に開いて棚になるのが特徴です。これも逆張りの発想で、使わないときのことを考えると、収納スペースをとって邪魔。その解決策を考える際にも、普通は「折りたたむ」という発想にいくところ、逆張りで「スーツケースを出しっぱなしにする」のはどうかと考えたら、普段から棚として使えるスーツケースができました。アメリカでもとてもよく売れています。
――身の回りの「イラッ」とすることを探し、「逆張り」の発想で解決策を考える。この2点を押さえれば、発明って誰にでもできそうですね。
小川コータ そうですね。発明と聞くと、テクノロジーなどの専門的な知識が求められるんじゃないかと思いがちですが、実は難しいものではありません。僕の発明はすべて、小学生の知識でも発明できたものです。
「課題を解決する」ことが発明だとみなさん思っているのですが、実は「課題を発見する」ことが発明の肝なんです。その際に大切なのは「そんなの当たり前だから」という思い込みを捨てることです。
わかりやすい例が。ドアノブです。昔は丸いドアノブが当たり前だったんですけど、最近はレバー式が主流ですよね。レバー式を作るのは簡単なのに、なぜ長いあいだ丸いノブだったのか。それは世界中の人が「ドアノブは、丸いもの」という思い込みにとらわれて「滑って不便だ」ということを感じていても、言葉にしていなかったからなんです。
――最近はAIが驚くほど進化しているので、人の代わりにAIが新しい発明をしてくれる時代が来るのでは、と思ってしまいます。
小川コータ AIは答えを出すのは得意だけど、人間のように「イラッ」とすることはありません。だから、課題を見つけることは不得意なんです。AIが0から発明するという時代は当面やって来ないのではないでしょうか。発明家はAIが進化しても食いっぱぐれることのない職業かもしれません(笑)。
――コータさん自身は、すでに人生“100回分のおカネ”を手に入れているのに、発明家とミュージシャンの仕事を続けている理由は?
小川コータ 宝くじで数億円を手にした人が、その後の人生を台無しにしてしまう話はよく耳にします。でも僕は、おカネで選択肢は増えるけど、自分自身が好きなものは変わらないと思っています。だから、今も借家に住んでいるし、派手な生活だって必要ない。おカネに執着せず、好きなことを続けていきたい。僕にとってそれは発明であり、音楽なんです。
――これからの夢は?
小川コータ アメリカではプロスポーツ選手と並んで、「発明家」が子どもたちの人気の職業になっています。僕が活躍することで、日本の子どもたちも同じように「発明家」に憧れるようになってほしい。それが日本のイノベーション創出力を高めるきっかけになったらいいですね。