ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

「空きっ腹にシャンパンや白ワインは一番よくない」
海外出張が続き、生活がかなり乱れていた私はついに胃を壊してしまいました。ある夜、胃がキリキリと痛み、あまりの激痛に歩けないほどになってしまったのです。「体の声に耳を傾けなさい」と言われていた私が体の危険信号を無視し続けた結果です。完全なる自業自得です。
救急車を呼ぶ騒ぎになってしまったのですが、その時、同じ建物の向かいに住む年配のマダムにいろいろ迷惑をかけてしまいました。起き上がれない私のために戸締まりなどを代わりにしてくれたのです。
胃に穴が2つ3つ開いているのではないかと思うくらいの痛みだったのですが、精密検査の結果はただの「ストレス性胃炎」でした。その頃の私は、離婚訴訟が泥沼化し、会社では出世競争に巻き込まれ、今から思えばかなりのストレスを抱えていたのです。
医者はたいした薬も出さず、私にこう言い渡しました。
・ストレスを溜め込まないこと
・適度な運動を取り入れること
・胃に負担が掛かるものの摂取を控えること
負担が掛かるものとは香辛料やコーヒーなどのカフェイン入りの飲み物、そしてお酒。特に、
「空きっ腹にシャンパンや白ワインは一番よくない」
と注意され、私は普段の生活を見透かされたような気がしてドキリとしてしまったのでした。
70代のフランソワーズが日曜夜に必ず食べているもの
夕方遅くになって病院から帰ってくると、向かいのマダムが心配して様子を見に来てくれました。ただの胃炎だったと告げると、
「たいしたことなくてよかったじゃない!」と心から喜んでくれます。
「夕飯は?」
と心配する彼女に、今日はもう食べる気がしないと答えると、彼女は怒り出しました。
「今の若い人はこれだから! そんなことだから胃を悪くするのよ」
食事を抜いたりしていると反動で暴飲暴食に繋がり、胃に負担を掛けることになると彼女は言います。言われてみれば、私はかなり不規則な食生活をしていました。時差があるために出張先で「何ごはんに当たるのかよくわからない食事」をし、イベントの最中は深夜過ぎになってやっとごはんにありつけるような状況が続いていました。
出張帰りの私の冷蔵庫はその日も空っぽです。見かねたマダムがお向かいの自宅に招待してくれました。フランソワーズという名の彼女は70代とは思えないようなスリムな、そして元気なおばあさまです。
それまでは廊下ですれ違ったら挨拶を交わすくらいの仲でしたが、彼女は私が密かに「お近づきになりたい」と思っている人でした。ショートの髪の毛を緑色に染め上げ、カラフルなショールを巻きつけている彼女はいつ見てもカッコいいのです。
フランソワーズの家はアート作品だらけです。ちょっと不思議系のコンテンポラリー・アートの絵画が壁という壁に掛けられ、サロンには真っ赤なサイの彫刻が鎮座しています。
「ちょうど夕飯の準備を済ませたところなのよ」
そう言う彼女は私をサイの横にあるソファに座らせ、台所に消えたかと思うと、カフェオレ・ボウルを二つ、スプーンを二つ、それからお水を持って出てきました。どうやら夕飯はこれだけのようです。ボウルからは湯気が立ち、優しい香りが漂っています。
「日曜の夜はこれって決めているの」
そう言うフランソワーズが差し出してくれたのは、野菜のポタージュでした。彼女の髪の毛と全く同じ色の、鮮やかな緑色のポタージュです。
ボウルを手に取り、ふうふうしながら一口食べてみると、甘い風味が口一杯に広がります。あまりに美味しいので作り方を聞いてみると、フランソワーズは「適当」だと言います。余り物の野菜を放り込んでブレンダーで混ぜただけだと言うのです。
「疲れている時は胃腸に優しいものを食べないとダメよ」
ウインクしながらそう言うフランソワーズはそれ以来、有り難いことによく私を「ポタージュの夕べ」に誘ってくれました。そして私たちは真っ赤なサイの横でいろいろな色や味のポタージュを賞味しながら、夜遅くまでおしゃべりに花を咲かせたのでした。
パリジェンヌの定番レシピが最適、かつ最強だった
パリジェンヌはご馳走ばかり食べているというイメージがありますが、決してそうではありません。暴飲暴食を避けるために、そして胃を休ませるために、見えないところでうまいこと調整しているのです。
後でわかったことですが、この「適当ポタージュ」はパリジェンヌの定番レシピなのです。ズボラな人でも簡単にできるため、「日曜の夜はこれ」と決めている女性が多いようです。他に何も加えない、純粋な野菜の甘みは、フランス人が子供の頃から慣れ親しんできた味でもあります。
野菜のポタージュはパリジェンヌにとって最適の、そして最強のレシピだったのです。