2012年、民主党政権が倒れて、安倍氏が率いる自民党が総選挙で圧勝したときのマスコミ業界は今回の時事カメラマン氏のような人であふれかえった。手前味噌で恐縮だが、当時連載していたコラムの中で、その「惨状」についてこう書き残している。

《マスコミの友人たちと飲むと、必ずこういう人がいる。なにか特別な思想をもっているわけではないが、「安倍晋三」という響きを耳にした途端、「あんなのが総理になったら日本は終わりだ」と鼻息が荒くなる。で、だいたいその理由を聞くと「右翼だ」とか「政権を投げ出した」とか確たる論拠がなかったりすることが多い》(再び始まるマスコミの“安倍晋三バッシング”、なぜ? ITmediaビジネスオンライン 2012年12月18日)

 モリカケがどうとか、「桜を見る会」がどうこう以前にマスコミの中では首相に就任する前から「根拠のない安倍サゲ」が始まっていたのだ。これは今の高市氏もまったく同じだ。

「そ…それはマスコミだって人間なんだから好き嫌いはしょうがないだろ」という意見もあるだろう。確かに、思想信条の自由があるが、そういう人々が問題なのは今回の時事カメラマン氏が口にしたように、自分たちが持っている「力」を使って、世論誘導を試みるところだ。

 先ほどのコラムの中で詳しく説明しているが、第一次安倍政権時に某キー局の報道局の人間が安倍氏に対して「印象操作」を行なっている。

 安倍氏が記者の質問をはぐらかしているシーンだけを十数カット集めて、それをつないで放送したのである。当たり前だが、質問にちゃんと答えているシーンもあった。だが、そこをすべてスパッと切って、イメージの悪い部分だけを繰り返し放映して「マスコミを小馬鹿にする最高権力者」というVTRをつくった。さらに、番組と番組の間に流す5分ほどのストレートニュースでも流したのである。同局の元アナウンサーによればこのVTRをつくった人物はスタッフルームで、こう息巻いたという。

「オレが安倍を辞任させてやる」

 今ならば、首相会見はネット中継があるのでこんな不自然な編集をしていたらすぐに炎上してしまうが、18年ほど前は普通に公共の電波に乗った。マスコミが「支持率を下げる」ということが本当に可能だったのである。