たとえば認知症の予防に良いこととして、運動とか、友人との談笑とか、脳トレとか、いろいろ挙げられていますが、それらはすべて脳の血流を増やす方法です。私の治療法は、それを最も効率よく行うことができます。大切なのは脳の微小循環障害を治療することです。」
自己修復力を活性化する
治療法は理に適っているか
下川氏ら東北大学の研究グループが開発したのは「低出力パルス波超音波治療」だ。なんと、アルツハイマー病と脳血管性認知症の両方を治せる可能性があるという。
治療機器の重さはわずか150gほど。ヘッドギア型の装置を着用すると、両側のこめかみに当てた振動子から低出力パルス波超音波(LIPUS、リーパス)と呼ばれる特殊な超音波を脳全体に照射し(全脳照射)、その刺激によって血流を促進させ、微小循環障害やその結果として生じている慢性炎症を改善する。
軽度認知障害(MCI)を含む早期アルツハイマー病の男女を対象に東北大学で行った探索的治験では、1週間に隔日で3日、20分間のLIPUS治療を3回繰り返し(=1クール)、3カ月間隔で計6クール実施した結果、高い安全性が確認され、治療を受けたグループは認知機能に改善傾向が見られたという。この結果を受け、厚労省は2022年9月30日、LIPUSを「先駆的医療機器」第1号に指定した。
「患者さんの自己修復能力を活性化する治療法です。適切な刺激を脳に与えるだけで、患者さんの組織が自分で治っていく、理にかなった方法です。副作用はなく、他家移殖のような拒絶反応の心配もありません。しかも、薬と比べてかなり安価です」(下川氏)
低出力パルス波超音波治療は、2023年10月に最終の検証的治験(医薬品のフェーズ3に相当)を全国19施設で開始し、2024年11月には目標登録症例数を達成した。2027年の承認取得を目指している。