新たな悪役は口唇ヘルペスを
引き起こすウイルス?
だが、前出の大友氏は言う。
「アルツハイマー病治療の歴史を振り返れば、最終段階で効果が思ったほど出ずに撤退した薬も少なくありません。LIPUSについても『有望だが結果はまだ確定していない』と冷静に見守る必要があります。」
さらに、「アルツハイマー病の一因ではないか」と注目されているのが、口唇ヘルペスを引き起こす「単純ヘルペスウイルス(HSV-1)」だ。最近の大規模研究では、HSV-1感染歴のある人は認知症リスクが約1.8倍に上昇し、抗ウイルス薬で治療していた人はリスクが約17%低下していたと報じられている。
ただし、これはあくまで「関連を示した」観察研究の結果であり、感染が直接の原因と証明されたわけではない。むしろ「感染をきっかけに脳の炎症が悪化し、アミロイドβが防御反応として過剰に作られるのではないか」という仮説段階にある。
どうやらアルツハイマー病克服への道筋は、未だはっきりとは見えていないようだ。
「個人的には、アルツハイマー病の原因は一つではなく、複数の要因が重なって起きて来るものだと思っています。LIPUSとHSV-1、2つの研究で興味深いのは、血流障害とウイルス感染という一見別々に見える仮説が、最終的には「慢性炎症」という共通の土俵に集約される点です。血管が詰まれば脳は炎症状態に傾き、ウイルスが再活性化しても同じく炎症が引き起こされます。こうした炎症反応が長期にわたり続くことで、アミロイドβの過剰な蓄積や神経細胞の障害が起こるのではないか…と。
現在の研究は、『血管』と『感染』がそれぞれ独立した原因ではなく、互いに絡み合いながらアルツハイマー病の発症リスクを高めている可能性を示しています。」(大友氏)
アルツハイマー病の要因には、ホルモンの低下及び補充なども関係していると言われている。
最終的には、幾筋もの支流が合流して大河となるように、アルツハイマー病克服への道筋も見えてくるのだろうか。希望を失わずに待ちたい。
(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/渋谷セントラルクリニック ファウンダー・プロデューサー 大友博之)
大友博之
渋谷セントラルクリニック ファウンダー・プロデューサー。日本抗加齢医学会専門医、欧州抗加齢医学会専門医等の資格を有し、外来診療にとどまらず、テレビ、雑誌、各種コンサルティングや料理教室を主宰し21世紀型の健康的な生活のあり方を提案している