「末期の大腸がん」が主治医を信じて手遅れに…セカンドオピニオンのハードルはなぜ高いのか?セカンドオピニオンを受ける勇気が、患者の運命を変えることもある(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「便の血液は痔によるもの」
職域検診の指摘を無視し続けていた

 2023年8月、ヒロコさん(仮名)は兄を亡くした。9カ月ぶりにかけた電話で、ステージ4の大腸がん、肝転移のほか腹膜播種を起こしており「すでに余命2カ月を切っている」と知らされたのは6月だった。大腸がん腹膜播種とは、大腸内に発生したがん細胞が大腸の壁を貫いて、お腹の中にばら撒かれた状態を指す。

 兄タカトシさん(仮名)は死亡時66歳。実家は東北地方で、首都圏の大学を卒業。大手食品工場で60歳まで工場長を務めた後、延長雇用で働いていたが、前年7月に脳梗塞で緊急搬送されたのをきっかけに体力の限界を感じ、年明け1月の誕生日をもって退職を決めていた。

 家のローンは60歳までに完済。共働きの妻との間に子どもはいない。趣味の旅行とカメラをのんびり楽しむために、田舎に移住する計画を立て、楽しみにしていたが、大腸がんが発覚したのはまさにその1月だった。

 実は職域検診では3年ほど前から異常がみつかり、精密検査を勧められていた。しかし「便の血液は痔によるもの」と無視していた。秋口からはひどい便秘と下痢を繰り返すようになったが、「脳梗塞の薬のせい」と解釈。高校時代からのヘビースモーカーで、大酒飲みでもあったため、「自分ががんになるなら、肺がんか肝臓がんに決まっている」という思い込みが強烈なバイアスになっていた。

 結局、北風が吹き始めた頃から異常に疲れやすくなり、体重が激減した年末、久々に会った妻の親族から「一度、病院で診てもらったほうがいい」と強く勧められ、ようやく脳梗塞後に通院していた大学病院の消化器外科を受診。厳しい診断が下ったのだった。

 正直、ここまでは、検診の結果を無視し続けたタカトシさんの自業自得とも言える。だが以降は、挽回するチャンスが少なくとも2回あった。「あの時点でセカンドオピニオンさえ受けていれば」とヒロコさんは今も悔しく思う。

 セカンドオピニオンとは、最初に医師から行われる説明(ファーストオピニオン)に対して、別の医師に他の意見を求めることを指す。納得して治療を受けるために必要なことであり、医師は基本、拒否しないことになっているが、現実はまだまだ普及していない。