正体不明の「痛み」に苦しむ人は推定2000万人以上!慢性痛治療に立ちはだかる「バカの壁」とは正体不明の「慢性痛」に悩む人は推定2000万人もいる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

動き始めた「対策基本法」に期待の声
日本の慢性痛治療はなぜ進まないのか?

 今度こそ、慢性の痛み対策基本法が成立するかもしれない――。

 2025年6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」に、「がん対策」「循環器病対策」「慢性腎臓病対策」「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」などともに「慢性疼痛等の疾患に応じた対策」の14文字が盛り込まれたとき、北原雅樹氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科)ら慢性疼痛医療に携わる医師たちは大いに期待した。

 というのも、彼らは長年「日本の慢性痛医療は欧米よりも20年遅れている。なんとかしなければ」と主張し続けているが、状況はなかなか変わらないからだ。

 北原氏はかつて“痛み研究の世界最先端”と称される米国ワシントン州立大学ペインセンターで5年間臨床経験を積み、痛みの診断と治療のあるべき姿を体験して来た。そこで痛感したのが、痛みに関する日本の医療システム・医療教育の遅れだった。

「痛みが生じる背景には、ケガや病気、疲労といった身体的な問題だけでなく、心理・社会的な問題を含むさまざまな原因があります。特に慢性痛については、医学部ではほとんど教わることがないので、結果、見当違いの診断が下され、的外れの治療しか受けられず、つらい痛みを難治化・慢性化させている患者さんが大勢います」

「身体の痛みには、急性痛と慢性痛の2種類があります。転んだりぶつけたりして生じるケガによる痛みや、虫垂炎(盲腸)や胃潰瘍、心筋梗塞やがんなどの病気による痛みは、多くの場合、急性痛です。大抵、レントゲンやMRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像検査で痛みの原因となる組織の損傷が見つかります。急性痛は、そうした原因となるケガや病気が治れば、痛みもおのずと消えます」

「慢性痛は、原因がわかりにくい痛みです。国際疼痛学会では、〈急性疾患の通常の経緯、あるいは創傷(ケガ)の治療に要する妥当な期間を超えて3~6カ月以上持続する痛み〉と定義されています。つまり、痛みの原因となるケガや病気はすでに治っているのに、痛みだけが消えずに続いている状態です」