出戻り社員を受け入れる側が
すべき“準備”とは?

 もちろん、受け入れる側の準備も欠かせません。自社を辞めた背景をきちんと聞き出し、同じ問題が繰り返されないようにする必要があります。

 待遇が理由なら適切に調整する。人間関係が理由なら配置や組織運営を見直す。顧客対応による過度なストレス、いわゆるカスタマーハラスメントのような事例が原因なら、再発防止策を講じることが不可欠です。それはその人に対してだけではなく、他の社員にも起こっているかもしれません。

 単に「戻ってきてくれたから良し」とするのではなく、過去の課題を会社全体で乗り越える環境を整えなければなりません。

 一方で、戻る側にも心構えがあります。戻ってきた人は、過度に遠慮したり卑屈になったりする必要はありません。「すみません、戻ってきました」と素直に言えるくらいがちょうどいい。お互いに変に気を遣いすぎると、かえって関係がぎこちなくなってしまうからです。

出戻り社員を大切にできる会社は
必ず強くなっていく

 では、なぜ一度辞めた会社に出戻るのか。結局のところ、待遇よりも働きがいが決め手になります。

 優秀な人材は好待遇で他社に引き抜かれることが多いはずです。けれども、より条件の良い会社に移った人が戻ってくるのは、元の会社で働けば良い仕事(1.お客さまが喜ぶこと、2.働く仲間が喜ぶこと、3.工夫)ができるからです。そんな会社のある若手社員は、「ディズニーランドより会社に行く方が楽しい」とまで話していました。

 逆に、経営者が「金、金、金」と私利私欲を優先すれば、優秀な人材ほど早く辞めていきます。けれども「お客さまや働く仲間の喜び」「工夫と成長」といった価値観を中心に据えた会社には、働きがいを感じ、長く勤めてくれる人が増えるほかに、以前いた人が戻ってきます。

 出戻り社員がいるかどうかは、その会社に働きがいがあるかどうかのバロメーターともいえます。言い換えれば、出戻り社員の存在は企業の価値を映す鏡のようなものです。

 人材獲得競争が激化するこれからの時代、経験豊富で実力のある出戻り社員をどう位置づけ、どう生かすかは企業の未来を左右します。彼らを大切にできる会社は、必ず強くなっていくはずです。