『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社
さまざまなメディアで取り上げられた押川剛の衝撃のノンフィクションを鬼才・鈴木マサカズの力で完全漫画化!コミックバンチKai(新潮社)で連載されている『「子供を殺してください」という親たち』(原作/押川剛、作画/鈴木マサカズ)のケース4「親を許さない子供たち・中編」から、押川氏が漫画に描けなかった登場人物たちのエピソードを紹介する。(株式会社トキワ精神保健事務所所長 押川 剛)
ひきこもりの診察、なぜ父親は不在?
トキワ精神保健事務所の「精神障害者移送サービス」にはさまざまな相談が舞い込む。今回の依頼者は10年以上もひきこもる息子・田辺卓也(仮名)の家族だ。特に母親は精神的にも限界を迎えていたため、卓也を入院させようと試みる――というのが、今回のあらすじだ。
私は正式に依頼を受けてから、行政機関や医療機関など関係機関に相談に赴いた。このときも、動くのは母親のみだった。通院先の家族診察にも、父親が出席することはなかった。
ちなみに、相談を受けた当時、卓也が通院していたのは大学病院の精神科である。主治医は県内でも有名な精神科医であり、母親も絶対的な信頼をおいていた。「大学病院の著名な医師=素晴らしい先生」という、いわゆる権威主義的な考えがあったのだろう。
しかしそんな立派な医師に診てもらっていても、卓也の状態は悪くなる一方であった。
私も専門家の端くれとして思うことだが、建設的なアドバイスが欲しいならなおのこと、相談の席には両親がそろって参加したほうがよい。
納得できる理由もなく、父親(もしくは母親)が出てこない時点で、専門家は「そこに家族の問題がある」と考える。嫌な言い方をすれば、それこそが家族の弱点だと見抜いてしまうのだ。
今回のケースでも、最初の主治医は「(本人が)通院する気になるまで待てばいい」、転院先の医師は「あと10年くらい気長に見守れば」と母親に伝えている。これは、経済力に余裕のある父親に対する、ある種の当てつけでもある。
受診拒否、あるいはひきこもりの維持を望んでいる相手に対し、適切な治療を受けさせるには、相応のパワーがいる。だから、父親が診察に同席すらしない家庭なら、「親の責任で、最後まで面倒をみればいいじゃないか」と考える。幸いにして本人もそれを望んでいるのだ。
漫画では、医師の「本人が過ごしやすい家庭環境を作ってあげるしかない」というセリフも登場するが、これも超絶な嫌味だ。
私には「先生は、この家族をバカにしているんだな」としか思えなかった。本人も家族も、一人の人間として向き合えてもらえていない。その事実に怒りすら抱いた。
父親の「外側」だけ見れば、学歴があり社会的地位があり、おそらく仕事では努力を重ねてきて、信用を築き上げる人生を送ってきた。まさに成功者だ。
でも私には、「人として」という根幹のところで、父親が世間から舐められ、バカにされているように思えた。
そして父親自身はそれに気づかないまま、10年もの時間を過ごしてきた。この一点において私は、人間が社会で生きることの本当の意味を、考えずにはいられないのだ。
現代社会の裏側に潜む家族と社会の闇をえぐり、その先に光を当てる。マンガの続きは「ニュースな漫画」でチェック!
『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社
『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社







