「儀式」的なイベントはあった方がいい
歴史をたどれば、この祝祭が文化的な背景を持つことは理解できる。しかし、この行為を「不謹慎だ」「無駄遣い」と断じる人々もいる。
ただ、その批判は、人間の集団力学や心理を理解しない、あまりに皮相的な観察であると言わざるを得ない。
冷酷なまでに効率を追求する現代社会において、このような非生産的に見える行為がなぜ生き残り続けるのか。その答えは、最新の組織科学の研究の中にあった。
バージニア大学のタミ・キムらが2021年に発表した画期的な論文『Work group rituals enhance the meaning of work(仕事のグループ儀式は仕事の意味を高める)』は、この問いに驚くべきデータをもって答えている。
この研究は、野球チームの優勝に限らず、普通の会社で行われるさまざまな「グループでの決まった行動」が、働く人たちの心にどんな影響を与えるかを科学的に調べたものだ。
ビールかけは、この論文が説明する「儀式」の、まさに最強の形と言えるだろう。
論文の中で、研究者たちは、ある行動がただの習慣ではなく「儀式」になるための、下記の3つの大切なポイントを挙げている。
●身体の動きがあること
●心にとって特別であること
●みんなでやっている感覚があること
ビールかけは、この3つのポイントを全て満たしている。
「ビールを互いにかけ合う」という【身体の動き】があり、それは「リーグ優勝」という【心にとって特別な意味】を持ち、そしてチーム全員が参加する【みんなでやっている感覚】がある祝祭だからだ。
研究が明らかにしたのは、こうした儀式が、単なる楽しい思い出作りで終わらないという事実だ。
275人の社会人に調査したところ、職場に儀式のような活動がある人ほど、普段の仕事に対しても「これは価値のある仕事だ」と強く感じていることが分かった。さらに、彼らは給料のためだけでなく、頼まれなくても仲間を助けたり、チームのために動いたりする傾向が強かったのだ。
これは、ビールかけで爆発した「やったぞ!」という強い一体感や達成感が、その日だけで消えてしまうのではなく、シーズンオフの地味な練習や、次の年に向けた活動のやる気にまで良い影響を与える、ということを科学的に示している。