ビールかけは無駄じゃない!むしろ「人間の叡智」だ!
では、なぜこのような効果が生まれるのか。論文が突き止めたのは「意味の転移(meaning transfer)」とでも言うべき、驚くべき心の仕組みだ。
これは、儀式という特別なイベントで生まれた「このチームは最高だ!」という特別な気持ちや価値が、その後の全く関係ないはずの普段の活動にまで、まるで転移するかのように影響を与える現象を指す。
研究者たちは、この仕組みを証明するためにある実験を行った。
300人以上の人たちに、先ほどの儀式の3つのポイントが「全部ある」「一つだけある」「全くない」という、職場での架空の物語を読んでもらった。
その結果、3つのポイントが全部そろった儀式の物語を読んだ人たちが、その後の仕事に対しても一番「意味がある」と感じ、チームのために頑張ろうという気持ちも最も高くなったのである。
ビールかけという強烈な儀式で生まれた「俺たちは勝者だ」「このチームは最高だ」という感覚が、その後の退屈なミーティングや過酷なトレーニングでさえも、「日本一のチームとしてやるべき価値のある仕事だ」と感じさせる力を持つのである。
この「意味の転移」こそが、儀式が持つ魔法の正体なのだ。
さらに、実験室で参加者に実際の儀式を体験してもらう研究も行われた。、
メンバー同士が向き合って儀式を行う「共同性の高い」グループは、背を向けて儀式を行ったグループに比べ、その後の全く別の課題(ブレインストーミング)に対しても、より強い意味を感じることが確認された。そして、この高まった「課題の意味」が、間接的にグループのパフォーマンスを向上させるという経路も示された。
ビールかけやシャンパンファイトは、決して無駄な騒ぎではない。むしろ「人間の叡智」と呼ぶにふさわしい。
仕事に深い意味を与え、メンバーの自発的な貢献を引き出し、チーム全体の結束を強固にすることで、次なる挑戦へのエネルギーを充填するためのものなのだ。