金にとって「3度目の正直」となるだろうか。金は過去50年間で3度目の上昇局面を迎えているが、前回と前々回は高値から大きく崩れた。金が今年、記録的な急騰を見せた後で一段と上昇するという論理はシンプルだ。「今回はこれまでと異なる(This time is different)」というものだ。
これは、カルメン・ラインハート教授とケン・ロゴフ教授が共著のタイトルに使って以降、株式・債券・為替市場の投資家にとって危険な言葉であることが証明されている。副題が筋書きを明かしている。「8世紀にわたる金融の愚行(Eight centuries of financial folly)」だ。(訳注:邦訳は「国家は破綻する─金融危機の800年」)
金は政府や銀行の愚行から身を守る究極の安全資産として、例外的な存在とされている。数多くの愚行が見られる中、金価格はここ2年間で2倍になった。
危険なのは、金が今や金融システムの他の部分でバブルを生み出すのと全く同じ種類の投機的な過熱状態に陥っていることだ。
金は1979~80年と2010~11年にも2年間で価値が2倍以上に上昇した。いずれの時期も、投資家は米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレによってドルの価値が損なわれることを容認するのではないかと懸念していた。1970年代の懸念は、FRBが大統領の支配下にあるというものだった。実際にリチャード・ニクソン政権下ではそうだった。
2008~09年の金融危機後、著名投資家や右派系のエコノミストらは、FRBの景気刺激的な債券購入が通貨価値を下落させ、インフレを引き起こすことを懸念していた。
いずれの時期においても、そうした懸念は的外れだったことが判明した。金価格は1980年代初頭の2年間で半値に下落した。これはFRBが2度の景気後退にもかかわらずインフレ対策を優先したことが背景にある。金価格が1980年1月のピークを回復するまでには四半世紀以上を要し、インフレ調整後の実質ベースでその水準に戻したのは、今年に入ってからだった。金が長期的に安定した価値を持つという考えは誤りだったということだ。
金価格は2011年の高値から5年間下落した。2020年にその水準を一時回復したものの、2年前の時点ではまだその水準を下回っていた。
今回は状況が異なるかもしれないと考える十分な理由はある。一方で、投機的な動きを示す懸念すべき兆候もある。