【社説】日韓の巨額対米投資、実現は信じ難いPhoto:Bloomberg/gettyimages

 ドナルド・トランプ米大統領の行動は非常に素早く、発表事項が非常に多いため、どれが誇大宣伝でどれが現実かを見分けるのは難しい。その代表例は、トランプ氏との通商合意の一環で外国政府が約束した対米投資だ。それらは非常に規模が大きいため実現の可能性が低く、米国の統治や財政支出の権限を巡る深刻な疑問を投げ掛けている。

 トランプ氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の年次会合に出席するため、月内に韓国に向かうことになっており、スコット・ベッセント財務長官は、トランプ政権が韓国政府による約3500億ドル(約53兆円)の対米投資の約束についての交渉を「近く仕上げる」と話している。そうした約束の見返りに、トランプ氏は韓国からの輸入品に対する関税率を25%から15%に引き下げる。日本も関税引き下げの見返りとして、5500億ドルの対米投資に同意している。

 日本との覚書は、その詳細を調べてみるまでは成功のように聞こえる(韓国との覚書の内容はまだ交渉中だ)。日本との覚書によれば、金属、エネルギー、人工知能(AI)、量子コンピューティングといった「経済・国家安全保障上の利益を促進すると見なされる分野」に投資が行われる。

 だが、こうした投資は、台湾積体電路製造(TSMC)がアリゾナ州で半導体工場建設を決定したような民間企業による投資ではない。これらは政府間の投資であり、米政府、つまり大統領とその側近の裁量に完全に委ねられる。実質的には、議会の予算承認や立法手続きなしに運用される政府系ファンドだ。

 米投資銀行パイパー・サンドラーのアンディ・ラペリエール氏は先週、驚くべき内容の調査報告書で、日本との合意に関する異例の条件について詳述した。米政権は、投資案件ごとに特別目的事業体(SPV)を組成する。投資先は、大統領または大統領が希望する管理者によって選定・管理される。日本には資金の拠出まで45日の猶予が与えられる。日本が拒否した場合は、関税が引き上げられる可能性がある。

 この政府出資取引において、日本は有限責任パートナーとなる。利益が生じた場合、日米の政府は、明示されていない「みなし配分額」に達するまで利益を等分する。その後は米国が利益の90%を受け取る。

 問題の一つは、約束した金額の大きさにある。ラペリエール氏によると、3500億ドルという金額は、トランプ政権の残りの3年間でならすと、韓国の1年間の国内総生産(GDP)の6.5%に相当する。日本は覚書に基づき、2028年まで年1830億ドルを費やさなければならない。これは残りの3年間でならすと日本のGDPの4.4%に相当する。