
米中会談前に再び「ディール」材料?
またしても関税引き上げで“脅し”
トランプ大統領は10月10日、中国によるレアアース(希土類)輸出規制に対抗し、100%の追加関税を11月1日から課す方針を表明した。
米中間の摩擦は、TikTokの米事業への売却に関する枠組み合意などもあり、10月末に韓国で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に合わせた首脳会談の実施を目指し、小康状態とみられていた。
市場には不安が走ったものの、一方でどうせ「TACO(トランプ氏はいつもしり込みする)」で終わるとの観測もあり、再び幕を開けた「トランプ関税劇場」に米株価は乱高下した。
習近平国家主席との会談を前に、追加関税をちらつかせ、中国との有利な条件での「ディール」をもくろんでいるとの見方も根強いが、11月5日には、トランプ関税の合法性をめぐる訴訟の口頭弁論が最高裁判所で予定されており、関税の先行きには不透明性の霧が立ち込めている。
トランプ関税を巡り、大統領の発言やSNSへの寄稿に、金融市場や世界が一喜一憂する状況が終わりそうで終わらないのは、関税に対する大統領の裁量がきわめて大きいからだ。
トランプ氏は、あらゆる国に対して関税をちらつかせ、貿易不均衡の是正から企業誘致、さらには合成麻薬「フェンタニル」対策を求める取引材料として利用してきた。「タリフ(関税)マン」を自称し、「わたしにとって関税は、辞書のなかでもっとも美しい単語だ」と豪語するなど、関税を万能の政治ツールとして扱っている。
だが、本来、米国憲法は、関税を定める権限を大統領ではなく議会に与えている。それにもかかわらず、なぜ大統領が自由に関税を操れるのか。
その背景には、議会が大統領に関税権限を委ねてきた長い歴史がある。国益の名のもとに進められたこの権限移譲が、皮肉にも「歯止めなき関税政治」を生み出している。