
米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)を「考えが小さい」と非難する人はいないだろう。同氏はかつて、人工知能(AI)の将来的な電力源として、太陽の周りに太陽光発電システムを設置することを提案したほどの人物だ。
オープンAIが将来の顧客ニーズに合わせたカスタムチップを製造するためにブロードコムと締結した新たな契約は、奇想天外とまではいかなくても、大胆であることは確かだ。
アルトマン氏は、消費者が求めるAIサービスを提供するには、自社のデータセンターにユーザー1人当たり最低1個のAI専用チップが必要になると述べている。すなわち、数十億個のチップが必要だということだ。
専門家もこの考えに同調している。非営利のAI研究機関であるアレン人工知能研究所(AI2)のアリ・ファルハディCEOは、AIが、今後担うと期待されている全てのタスクを引き継ぐなら、世界は現在の従来型マイクロチップと同じ数のAIマイクロチップが必要になると話す。
企業がAIを訓練するためのデータセンターを構築する際、半導体大手エヌビディアは依然として頼りになる存在だ。しかし、カスタムチップはAIを実際に動かして結果を出すプロセス(推論と呼ばれる工程)をより高速かつ安価にできる。これによりオープンAIは、現時点ではほど遠い黒字化に向けてコストを節約できる可能性がある。
オープンAIが最近、半導体大手ブロードコムやエヌビディアと結んだ契約は、AI業界における「ピーナツバターとチョコレート(相性の良い組み合わせ)」のようなものだ。どちらも、世界最高性能のモデルを(エヌビディアのチップを使って)訓練し、その出力を(ブロードコムのカスタムチップを使って)低コストで提供するという目標をオープンAIが達成するためには、欠かせないものだ。
カスタムシリコン
アマゾン・ドット・コムとグーグルは長い間、カスタムシリコンと複雑なソフトウエアを組み合わせてクラウドコンピューティングを動かしており、両社ともAIの訓練・提供向けの独自カスタムチップも設計している。メタ・プラットフォームズとマイクロソフトは独自カスタムAIチップの展開で初期段階にある。
コンピューターでは通常、ソフトウエア開発者は既存のハードウエア、特にマイクロチップに合わせてプログラムを作成しなければならない。アップルが2000年代半ばに行ったように、企業が独自チップの設計を始めると、チップとソフトウエアをより密接に組み合わせる機会が生まれる。だからこそ、iPhone(アイフォーン)は高速で動き、電力効率が良いのだ。オープンAIがより効率的なチップを手にすれば、顧客にAIサービスを提供するための電力コストを削減できる。