テック界の巨人を取り込んだアルトマン氏の手腕Photo:Andrew Harnik/gettyimages

 米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が今年1月、アジアでの春節(旧正月)旅行を終えようとしていた時、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義CEOはホワイトハウスで米オープンAIのサム・アルトマンCEOと並び立ち、「史上最大のAIインフラプロジェクト」とうたう計画を発表した。

 フアン氏は約10年間、オープンAIの躍進を支えるAIチップを供給してきた。フアン氏の考えに詳しい関係者らによると、同氏は、アルトマン氏との巨大契約を発表するのは自分でありたいと考えていた。

 その後すぐに、エヌビディアは水面下で類似のプロジェクトをオープンAIに提案し、事実上SBGを脇に追いやる形で、新たなデータセンター建設に必要な資金調達を自ら支援すると申し出た。この交渉は最終的に、カリフォルニア州サンタクララにあるエヌビディア本社で9月に発表された1000億ドル(約15兆円)規模の巨大契約という形で実を結んだ。

「これは史上最大のコンピューティングプロジェクトだ」とフアン氏は述べた。

 アルトマン氏はフアン氏にFOMO(取り残される恐怖)を与えるつもりはなかったかもしれないが、そうした効果をもたらした。そしてそれは伝染している。

 アルトマン氏は、無限とも思える計算能力をオープンAI向けに確保するというビジョンを実現するため、大型契約を相次いで取りまとめ、同社の将来的な成長の恩恵にあずかろうとするシリコンバレーの巨人たちのエゴを互いに競わせている。

 その結果生じた金融面での競争は、世界最大の半導体企業やクラウド企業の運命、そして広範囲にわたる米経済の運命をオープンAIに結び付け、同社を事実上「大きすぎてつぶせない」存在にした。これらの企業は全て、黒字化にはほど遠くビジネス上の課題が山積するスタートアップの成功に賭けている。