
2021年に米IBMのITインフラストラクチャーサービス部門が分割されて設立されたキンドリル。複数のAIエージェントを駆使する、エージェント型AIのソリューションをすでに政府機関に導入し、数日かかっていた処理を数分で完結するなど劇的な効果を上げているという。一体どのような手段で達成したのか。特集『DX2025 エージェントAIが来る』(全21回)の#12では、エリー・キーナン グループ・プレジデントに、エージェントAI時代に向けた秘策を聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
AIで月1.8億件の運用自動化を行い1600万件以上の
障害予測を提供する独自プラットフォーム
――キンドリルの最近の事業の状況について教えてください。
2021年にIBMからスピンアウトして4年近くがたちますが、投資家に約束した、今年度の第1四半期に成長路線に戻すという目標は達成しました。26年3月期通期についても成長に回帰するという目標も達成できる見込みです。
日本と世界で400社以上の新規顧客を獲得し、顧客満足度も上がりました。IBM以外の多様なテクノロジー企業との連携も広げ、その関連ビジネスは2桁成長を続けています。また、サービス提供や、コンサルティング事業にAIを活用した新しいモデルを投入し、従来のITシステム構築や運用支援にとどまらず、AIを活用して企業変革を支援する領域へと踏み込んでいます。
――ITインフラの運用およびITシステム刷新や構築にすでにエージェント型AI(エージェントAI)を投入している実績があるそうですね。
当社は3年半前のスピンアウト時から「キンドリル・ブリッジ(Bridge)」というAIプラットフォームを開発して顧客サービスを行っています。この機能の中でも特に重要なのがAIによるITシステム運用です。従来のように障害が起こってからではなく、AIが事前にそれを察知して対応し、情報の分析や提案をも担います。
現在、Bridgeは世界で月に1億8600万件もの自動化処理を実行し、毎月1600万件以上のAIによるインサイトを提供しています。インサイトとは、システムの状態やトラブルの予兆をAIが分析して「この部分に手を打つべきだ」と前もって助言してくれるものです。
Bridgeは3種類のAIを組み合わせたプラットフォームです。機械学習で、世界のどこかで起きたシステム障害とその原因にまつわる膨大なデータを学習・分析。同じパターンが他の地域でも起こりそうなときに事前に対処できるようにします。
次に生成AIです。テキストや画像などを生成して、自然言語対話で新しい情報を得られるようにします。オペレーターや技術者がシステムの状態を理解したり改善策を考えたりするスピードと生産性が大きく上がります。
そして三つ目がエージェントAI。AIが自律的に複雑な業務フローの中で学習を行い、必要なアクションを自ら実行し、人間の手を介さずに問題を解決してしまう仕組みです。人間はより戦略的な判断に集中できるようになっています。
エージェントAIはすでにITシステムの運用保守や、刷新の現場で活用されているという。ある金融業では本人確認のプロセスの時間が数日から数時間に短縮、保険業界では保険数理士の生産性が20~30%アップ、そして、政府機関のある取り組みでは数日かかっていた手続きが数分で完了するなどの劇的な成果が出た。いかにして、このような効果が出せたのか。そこには、従来のシステム構築とは全く異なる方法論があったという。一体どのようなものなのか。次ページで詳しく見ていこう。