新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は一流と呼ばれる人々が大事にしている感覚について『EXPERT』の本文から抜粋・一部変更してお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)
 Photo: Adobe Stock
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キーボードを打つ手にも感覚は宿る
熟達者は身体の中に、手と道具と対象が交わる場所で何が起きているかを察知する内なる参照点を持っていて、もう一押しするべきか、引き下がるべきかを見極めることができる。何かのスキルを習得しようとしたことがある人なら、その感覚がわかるのではないだろうか。
私が出会ったさまざまな分野の達人たちはみな、自分が扱う材料や道具との関係を確立している。すべてのものには、そのふるまいを決定する「物質性」がある。熟達するというのは、繊細な物理的世界を認識できるようになるということでもある。
扱っている材料と向き合うことで、材料と自分自身の性質を理解できるようになる。タイピングで文章を書くという、一見すると物質が介在しないような行為でさえ、物理的要素と無縁ではない。身体に意識を向ければ、手に持ったペンの感触、紙の質感、指先に伝わるキーボードの反応や沈み込みの微妙な感触に気づくはずだ。ところが、達人たちの仕事ぶりについて書かれたものを読むと、触覚、聴覚、嗅覚といった感覚が見過ごされていることが多い。
この感覚を養うには長い時間がかかる。だが経験を積むうちに、どこまで踏み込めるか、どこで引き下がるべきかがわかるようになる。自分の感覚が語りかけることに耳を澄まし、その言葉にならない言語を読み取れるようになったとき、熟達への道が開かれる。
(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)




