「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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フレームワークは「整理」には役立つが、
「創造」には役立たない
あなたの会社には、ビジネススクールで教えられているフレームワークを多用する“戦略通”はいませんか?
マイケル・ポーター氏が提唱したバリューチェーンやファイブフォース、SWOT分析をはじめ、世の中には数多くのフレームワークが存在します。
では、それらのフレームワークを使えば、誰にでも優れた戦略をつくることができるのでしょうか。
確かに、フレームワークを埋めていけば、必要な要素を網羅した戦略はつくれるかもしれません。しかし、それだけで顧客の満足度を高めたり、競合に対して差別化を図ったりできるとは限りません。
なぜなら、フレームワークは「考えるための型」であって、「考えた結果」ではないからです。フレームワークを埋めて安心した瞬間に、思考は止まってしまいます。
戦略の起点を見つける鍵は、
現場でのエピソードにある
多くの企業では、フレームワークを使いこなし、丁寧に分析を重ねても、なかなかユニークな戦略を生み出せずに悩んでいます。
「中期経営計画や事業計画を作成しても、いつも似たような結果になってしまう」
実は、こうした悩みを抱えているのは、あなただけではありません。
私がかつて海外でMBAを取得していたときにも、同期の多くがフレームワークを探しては、それを埋めていました。そうすることで確かに考えを整理することはできますが、創造にはつながりません。
大切なのは、分析に入る前に、目の前の顧客の真のニーズを深掘りすることです。
フレームワークは戦略の出発点ではありません。たとえば、あなたの大切な人が目の前で困っているとき、まず分析から入ることはないでしょう。「どうしたの?」と声をかけ、その人の気持ちに寄り添おうとするはずです。
戦略づくりも同じです。データをもとに分析する前に、対象となる顧客の感情や背景を理解しようとする、その「共感」こそが、戦略の起点となります。
戦略を立てる前に、まずは顧客のリアルな声を聞きに行きましょう。そのときには「嬉しかったこと」「悲しかったこと」「誇りに感じていること」など、語り手となる顧客の感情が動いた瞬間に注目してみてください。具体的なエピソードを聞く中で、自分自身の感情が動いたその「共感」の瞬間こそが、戦略づくりの大きな手がかりとなります。
フレームワークの価値は
「問いを磨く」ことにある
多くの人がフレームワークを、答えを出すためのツールとして使いがちです。しかし本来、フレームワークは考えることを促す道具にすぎません。
たとえばSWOT分析であれば、強みや弱みを埋めることが目的ではなく、なぜそれを強みと捉えるのか?本当に弱みなのか?といった問いを立て直すための起点として使うべきものです。
つまり、フレームワークの価値は「答えを出すこと」ではなく、「問いの精度を高めること」にあります。問いが磨かれることで、見えてくる解決策の質も変わります。
戦略を立てる力とは、正しく問い続ける力のことです。その力を養うには、フレームワークを埋めるのではなく、顧客との対話のきっかけとして使うことが大切です。
顧客を深掘りする方法は、『戦略のデザイン』のレッスン1で、具体的な「問い」と「型」として整理しています。型を使いながら考えれば、「戦略を立てる力」は誰でも鍛えられます。
『戦略のデザイン』では、ほかにもゼロから勝ち筋をつくるための技法を多く紹介しています。日々の仕事の中で、ぜひ実際に試してみてください。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




