行事を通して“文化的感受性”を育み
礼節や思いやりを学ぶ

 また、富裕層家庭では、行事は単なる伝統やしきたりではなく、「家庭文化の再現」として位置づけられています。

 それぞれの行事に教育的意図を込め、子どもの発達段階に合わせて意味を与えるのです。

 節分では「鬼=外敵」ではなく「自分の中の怠け心」を退治するという内省的な教えを、ひな祭りでは「季節を感じ取る美意識」と「品格」を伝えます。端午の節句では「強く優しく生きる心」を学ばせ、七夕では「努力と願いを結びつける想像力」を育みます。

 これらは全て、子どもの中に“文化的感受性”を育てるための教育装置です。

 また、行事には、自然と「段取り」「礼節」「思いやり」を学ぶ機会があります。

 執事として多くの富裕層のご家庭を拝見してまいりましたが、行事を丁寧に行う家庭ほど、家の中が穏やかで、子どもが情緒的に安定していたと感じます。

 親子でおせちを作れば、手間と感謝を学びます。七夕で願い事を書けば、言葉の力を知ります。お月見で月を眺めれば、沈黙の中にある心の対話を体験します。

 親は教える側でありながら、自らも行事を通じて成長し、子どもと共に学び合う。そこに「家庭教育の本質」があります。

行事を通じて
家族と一族の絆を深める

 富裕層の家庭にとって、子どもの教育は「個人の成功」ではなく、「家の文化の継承」です。

 行事を通して祖父母や親戚が集まり、家族が一堂に会する機会を大切にします。

 お正月の祝い膳を囲みながら祖父が語る昔話、七五三の神社参拝での感謝、夏祭りでの地域とのふれあい――こうした時間の積み重ねが、家族という小さな共同体に「文化の軸」を作り出していくのです。