部下の挑戦を許し、組織のスタンダードも引き上げる上司の“余裕”の正体
101歳、現役の化粧品販売員として活躍している堀野智子(トモコ)さん。累計売上高は約1億3000万円で、「最高齢のビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定されたキャリア61年のトモコさんが、年をとるほど働くのが楽しくなる50の知恵を初公開した話題の書『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものをお送りする。佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)が「堀野氏の技法は、ヒュミント(人間による情報収集活動)にも応用できる」と絶賛(日刊ゲンダイ・週末オススメ本ミシュラン)する世界一の先輩による“人生訓”は、アナタの疲れた心も元気にしてくれる!
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愛されて育った人の「ただし書き」つきの鷹揚さ
私が絶えず仕事をして生活費を補填すれば、その分、お小遣いが潤沢に使えるというメリットも、主人にはあったでしょう。それを差し引いたとしても、大正生まれの男性にしては、妻が外に出て働くことに関しては比較的寛容だったことについては、ありがたかったと思っています。
主人は甘やかされたボンボン育ちで、困った点もありましたが、「あの年代の男性にしては」というただし書きつきではあるものの、鷹揚な部分があったのは、愛されて育った人ならではの美点だったのかもしれません。
「シュッとした」夫の自信と美意識
また、主人は背が高く、今の言葉で言えば「シュッとしている」というタイプでしょうか。顔立ちもそこそこの、見た目のいい人でした。
おそらく自分の容姿にはそれなりの自信があり、「格好よくしていたい」という気持ちもあったのだと思います。そのうえ、仕事のお付き合いで華やかな女性のいる場所に出入りする機会もあったみたいです。
妻に求めた「女性の身だしなみ」
夫の一言がくれた「お手入れ」のきっかけ
だからでしょうか、私にも「きちんとしていなさい」とか「きれいにしているように」などとよく言っていました。
まだ私がポーラ化粧品を使っていなかったころ、呆れたようにこう言われたことがあります。「あのね、女性には身だしなみっていうものがあるんだよ。わかってるか?」。なりふりかまわず、お肌のお手入れさえしない私に興ざめしたのでしょう。
私がポーラの化粧品を使ってせっせとお手入れをするようになったのは、主人にそう言われたことが影響しているんです。
【解説』組織の「鷹揚さ」と「美意識」がもたらすもの
ここで描かれている夫の姿は、一見すると「甘やかされた男性」と「美意識の高い男性」という、少し矛盾した側面を持っているように映ります。
しかし、これをビジネスパーソン(特にリーダーやマネジメント層)の視点で読み解くと、組織運営における重要な示唆が二つ浮かび上がってきます。
1.自己肯定感が育む「鷹揚さ(寛容性)」
著者のトモコさんは、夫が妻の社会進出(働くこと)に比較的寛容だった理由を、「愛されて育った人ならではの美点=鷹揚さ」があったからではないかと分析しています。これをビジネスの現場に置き換えてみましょう。
リーダーや上司自身が精神的に満たされ、健全な自己肯定感を持っている場合、その「余裕」は組織全体に良い影響を与えます。そして、部下の新しい挑戦、異なる意見、あるいは(当時はまだ珍しかった)多様な働き方を「脅威」ではなく「可能性」として受け入れることができます。
「あの年代の男性にしては」という「ただし書き」つきではあるものの、この種の精神的な余裕に基づく「鷹揚さ」こそが、メンバーの自律性を育み、組織のイノベーションを許容する「心理的安全性」の土壌となるのです。
2.「美意識」が組織のスタンダードを引き上げる
もう一つの側面は、夫が持っていた「美意識」と、それを妻にも求めた点です。「格好よくしていたい」という自身の基準を持ち、妻に対しても「きちんとしていなさい」「身だしなみ」と、明確なスタンダードを求めました。
ビジネスにおいてこの「美意識」とは、「仕事の品質基準」「プロフェッショナリズム」「組織のブランドイメージ」に他なりません。
リーダーが「これくらいで良い」と妥協するのではなく、「私たちのスタンダードはここだ」という明確な基準(美意識)を持ち、それを組織全体に浸透させようとする姿勢は、組織の「品格」や「提供価値」を高いレベルで維持するために不可欠です。
本文では、夫の一言が妻の「お手入れ」のきっかけとなりました。同様に、リーダーによる高い基準の提示は、時に厳しくとも、メンバーの行動変容と成長を促す強力なトリガーとなり得るのです。
一見、単なる家庭内の回想に見えるエピソードですが、「自己肯定感に基づく他者への寛容さ」と「高い基準を求める美意識」は、どちらも現代の組織を牽引するために欠かせない両輪と言えるでしょう。
※本稿は、『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。









