「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

いつも「新サービスが失敗に終わる会社」に共通する「戦略の特徴」・ワースト3Photo: Adobe Stock

新規事業が失敗に終わる会社にある
共通の思考パターン

 あなたの会社では、社長肝いりで始めた新サービスが次々と失敗に終わっていませんか?

 新サービス開発の成功確率は決して高くはありません。それでも挑戦を止めれば、変化の激しい市場の中で、企業は衰退してしまいます。

 私が経営コンサルタントとして多くの企業にかかわってきた中で、新規事業が失敗に終わる会社には、ある共通の思考パターンがあることに気づきました。

 ここでは、その代表的な3つのケースを紹介します。

生成AIは「魔法の杖」ではない

 1つ目は、あらゆる課題を解決してくれる「魔法の杖」が存在すると誤解しているケースです。

 たとえば、「生成AIを使ったサービスを考案しよう!」といった掛け声が社内に広がっているなら、注意が必要です。生成AIは、社会やビジネスの形を大きく変える可能性を秘めるツールです。

 しかし、ツール自体が価値を生むわけではなく、決して万能ではありません。

 明確な課題設定や方針がないまま導入しても、方向性の定まらない試みが乱立し、結局“AIを使うこと”自体が目的化してしまうのです。もちろんそれでは、新サービスの成功にはつながらないでしょう。

 テクノロジーはあくまで「手段」であり、どんな顧客にどんな価値を生むのかという設計が欠けたままでは、戦略にはなりません。

データを集めるだけでは、サービスにならない

 2つ目は、「顧客データや取引データなどを集めれば、新しい事業が自然に立ち上がる」と考えているケースです。

 たとえば、「決済サービス自体は収益を生まないが、データが集まれば将来的にマネタイズできる」と安易に考えるのは危険です。データそのものには価値がありません。価値を生むのは、「誰の」「どんな課題を」解くためにデータを活用するかという意味づけです。

 データをどう解釈し、どのように顧客体験へ還元するのかを設計する必要があります。

 “データを集める戦略”ではなく、“データで価値を設計する戦略”へと発想を転換することが重要です。

長年培った技術が、いつまでも有効とは限らない

 3つ目は、過去の成功体験や特定の技術に固執してしまうケースです。

 自社の強みに自信を持つことは大切ですが、その強みが現在の市場環境でも本当に機能しているかは慎重に問い直す必要があります。

 創業当初は目の前の顧客と丁寧に向き合い、全力でサービスを提供していた企業も、競合が現れると“他社との差”を強く意識するようになります。さらに、会社が大きくなるにつれて社内の仕組みや制度整備に意識が向けられ、思考が内向きになりがちです。

 これでは顧客との距離は遠のく一方で、やがて市場の変化に取り残されてしまいます。

 自社の強みを見つめ直すと同時に、いまの市場で本当に求められている価値を、顧客の視点から再定義することが大切です。

 新サービスの出発点は、常に“自社の都合”ではなく、“目の前の顧客”にあります

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。