「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

【戦略立案】三流は「ベンチマーキングする」、二流は「フレームワークを埋める」、では一流は?Photo: Adobe Stock

戦略立案は知識量が勝負?

 一流の経営者やコンサルタントは、驚くほど鋭い戦略を描きます。あなたも、自社の新戦略に驚いたり、ニュースで他社の斬新な戦略を見て感心した経験があるのではないでしょうか。

 経営の教科書を開くと、多くのツールが載っています。また、ビジネススクールでは、たくさんのフレームワークを教えてくれます。

 一流の人は、こうした知識をたくさん持っているから一流なのでしょうか?

 たとえばベンチマーキングは、他社や他業界の優れた事例を分析し、自社に生かすための手法です。しかし、他社をどれだけ分析しても、その結果の使い方を間違えば、差別化ではなく同質化に終わってしまいます。

 かつて日本では、数多くのガラケーが製造されていましたが、その姿かたちや機能はどれも似通っていました。やがて、iPhoneの登場と韓国・中国メーカーの台頭により、日本の携帯電話メーカーは市場から姿を消しました。

 フレームワークによる分析は戦略立案を支えてくれますが、ただ枠を埋めるだけで素晴らしい戦略ができるわけではありません。

 事実、一流の戦略コンサルタントの中で、フレームワークを「型通り」に使っている人を、私はほとんど見たことがありません。

結局、自分で見聞きしたことがすべて

 戦略立案に「魔法の杖」はありません。

 では、一流の戦略コンサルタントや経営者は、何をしているのでしょうか? その答えは、会議室ではなく、現場のほこりと熱気の中にあります。

 一流の人たちは、現場で“何を見て”“何を感じたか”を丁寧に捉え、記録しています

 ノートに書き留めたり、チームで共有したりしながら、自分の心が動いた瞬間を言葉にして残すのです。そうして蓄積された感覚の記録が、やがて次の戦略の起点になります。

 彼らは、そうした記録を通じて「新しい兆しが生まれているのではないか」「社内の空気が変わり始めているのではないか」といった小さな変化のサインをつかみます。

 そのような肌感覚の気づきこそ、インターネットや生成AIからでは決して得られないものです。

 本稿で紹介した、現場で得た気づきを戦略に変える力は、『戦略のデザイン』で具体的な事例とともに詳しく解説しています。データや分析では捉えきれない“現場の声”をどう戦略に昇華させるか。一流の戦略は、会議室ではなく、現場の汗と実感の中から生まれます。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。