「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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関係性を築けないリーダーは、なぜ失敗するのか?
あなたには、チームがバラバラになってしまった結果、プロジェクトが失敗に終わった苦い経験はありませんか?
多くのプロジェクトが頓挫する背景には、関係者同士の感情的なわだかまりやすれ違い、さらには相手への苦手意識が潜んでいることも少なくありません。
社内においても、対立する部署や派閥の間で対話が成立せず、合意形成が進まないことで、プロジェクトが立ち行かなくなるケースは決して珍しい話ではありません。
特に村社会的な特徴の強い日本企業では、どれほど優れた戦略や仕組みを描いても、人と人との関係が築けなければ実行には至りません。
リーダーは、フォロワーがいて初めてリーダーとなる
かつて私の上司に、若くして全社横断プロジェクトのリーダーに抜擢された方がいました。バラバラに運用されていた商品開発プロセスを統合し、ひとつの仕組みへと再編することが、そのプロジェクトの目的でした。
マーケティング、営業、研究開発、財務など多様な部門が関与する中で、専任メンバーはわずか数名。ほとんどが兼任で構成されたプロジェクトだったため、メンバーはそれぞれの本業の立場を抱えており、利害や優先順位の衝突は避けられませんでした。
それでも彼女は、どの部門のメンバーにも信頼されていました。なぜなら、意見が対立する局面であっても、まず相手の意見を聞き、理解を示した上で議論を組み立てていったからです。
リーダーシップとは、命令や調整の能力ではなく、人を巻き込みながら関係性を築く力そのものだと、彼女の姿から学びました。
ヨコの合意形成の経験こそが活きる
彼女が発揮した力の核心は、相手の立場に立って耳を傾け、共感を示しながらも、対立を放置せずに建設的な議論につなげる点にありました。
ある業務を止めることで不便が生じたり、役割を失う人が出たりする場面では、議論が感情的になりがちです。
しかし彼女は、「この施策の本来の目的は何か」「全社にとって、どちらがより大きなメリットをもたらすのか」といった抽象度の高い問いをチームに投げかけ、対立を乗り越えるための土台を築いていきました。
プロジェクトの成功を左右するのは最終的な意思決定力よりも、ヨコの合意形成を進める経験と姿勢です。それこそが、関係性を起点とするリーダーシップの本質です。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




