Photo by Mayumi Sakai
2023年、ビッグモーターが起こした保険金不正請求問題は、自動車整備への信頼を大きく傷つけることになった。同社が顧客の車を意図的に傷つけていたことが知れ渡り、車検や自動車整備をきちんとやっていた他の企業までもが疑いの目を向けられるようになってしまったのだ。オートバックスが取り組んだのは、「顧客が安心できる、愛車の整備作業を見守れるシステム」の構築だった。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
真の透明性とは何か AIで愛車の整備作業を見守る
数年前に起きた大手中古車販売会社による整備不正問題は、業界全体の信頼を揺るがした。そんな中、カー用品チェーン「オートバックス」の本社、オートバックスセブンは、顧客がスマホで愛車の整備作業を見守ることができる、AI搭載「安心ピットカメラ」の開発に乗り出した。
プロジェクトは順調に進み、試験的にオートバックス7店舗の一部ピットに導入したが、運用開始後に深刻な問題が浮上する。「このままではクラウドのコストがかかりすぎて、全国展開できない」。チームは大きな決断を迫られた。
オートバックスセブンでは、業界で不正整備が発覚する前から作業の透明性を意識してきた。待合室からピット作業が見えるようガラス張りにした店舗もあったが、建物の構造上、それが難しい店舗もあった。
整備不正のニュースが報じられた後、他社の多くは待合室にモニターを設置し、防犯カメラの映像をライブで流すという対策を取った。だが、整備事業部 事業部長の久保田久光さんは、もっと良い方法はないかと考えていた。「画質も悪く、複数の車が映るため、自分の車が一目で分からないんですよね」(久保田さん)
オートバックスセブン 整備事業部 事業部長 久保田久光さん Photo by M.S.
AIでスマホから愛車の整備作業を見守れる仕組み
そこでアイデアとして浮上したのが、「安心ピットカメラ」だ。AIによるナンバープレート認識技術で、車が入庫すると自動でナンバーを読み取り、顧客データと紐付ける。顧客は自分のスマホから、愛車が整備される様子をリアルタイムで見守ることができる。しかも映像は3日間保存され、作業後も見返せる。これなら本当の意味で透明性が担保できる。
AI搭載「安心ピットカメラ」(動画再生イメージ) 提供:オートバックスセブン
しかし、プロジェクトはAIや動画配信といった新たな取り組みならではの壁にぶつかった。試験的に7店舗で運用が始まったタイミングで、ある問題が発覚し、システムを根本から作り直す事態となったのだ。







