チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。

なぜ、頑張るリーダーほど「自信」を失っていくのか?
「チームをマネジメントしていくの、ちょっと疲れてきちゃったな……」
最近、さまざまな企業の現場のリーダーから、そんな声を聞くことが増えてきました。
私に悩みを打ち明けてくださる方の多くは、能力も意欲も兼ね備えているうえに、メンバーとの関係性を大切にしたいと考えている現場のリーダーです。チームに与えられた目標を達成するために、メンバーに対して気を配りながら、日々、懸命に努力をされています。
だけど、なかなか思うようにはいきません。
人員、予算などのリソースが限られているため、チームの目標を達成するのが難しい状況のなか、なんとかメンバーのモチベーションを高めてもらおうと、あの手この手の働きかけをしています。しかし、そうすることでかえってメンバーとの関係がギクシャクしているような気がするとおっしゃるのです。
チームの雰囲気も停滞気味です。
メンバー同士が雑談で盛り上がるようなこともあまりなく、職場にはなんとなく白けたような空気が漂います。お互いに積極的に協力し合ったり、情報を交換し合ったりといった機運もあまり見られない。まさに、チーム全体がどんよりと疲れているように感じられるというのです。
ひとりになると、出るのはため息ばかり。そして、こんな思考が延々と続きます。
自分が若手だった頃は寝る間を惜しんで働いたけど、もう、そんな時代じゃないもんな。でも、仕事なんだから、もうちょっと積極的になってもらわないと……。
先週の1on1で、Aさんに目標達成を強く求めすぎたかな……あれ以来、目を合わせてくれない……。
Bさんは、資料作成に時間がかかりすぎだよな……「7割くらいの出来でいいから早めに見せて」と言ってるのに、ひとりで抱え込んでしまう……。
Cさん、また休みかぁ。モチベーションも下がってるようだし、このまま辞めちゃうのかな……。
上層部に、もう少し人員を増やしてほしいと要望したいけど、とてもそんなことを言えるような雰囲気じゃないしな……。
こんなことばかり考えていると、だんだん気が滅入ってきます。
しかも、多くの場合、彼らはプレイヤーとしての役割も担って、成果が上がらないメンバーの穴埋めをするために走り回っています。そのため、どうしても長時間労働にならざるをえない……。
そんな日々を送るうちに、彼らは疲れ果ててしまいます。
そして、あるときふとこんなことを思うのです。
「もう、どうしたらいいのかわからない……」
「自分は、リーダーには向いていないのかもしれない……」
「何がダメなのかがわからない」というリーダーの悩み
私にも、彼らの気持ちが痛いほどわかります。
私自身も、これまで同じような経験をたくさんしてきたからです。
リーダーの仕事は、予算、人員、工数、情報、資材などのリソース(資源)を活用して、「成果」につなげることです。しかし、これらのリソースが現場に十分に与えられることはほとんどないと言ってもいいでしょう。組織における経営資源には限りがあり、経営陣としても“ない袖”は振れません。
その結果、現場のリーダーにとっては、万全とは言えない量のリソースで成果を出すことを強いられることになり、時にはそれが“無理ゲー”のように見えてしまうこともあります。
それでも、成果を出さなければなりません。
そこで、パワハラと受け取られることのないように細心の注意を払いながら、メンバーの目標達成率を管理したり、工数管理や時間管理をしたり、あれこれと対策を講じます。しかし、こうした「管理強化」はたいてい逆効果に終わります。
その結果、リーダーはチームのなかで孤立感を覚えるようになり、「一体何がダメなのかわからない……」と自信を失ってしまうのです。
誰も教えてくれなかった「見えない資源」とは?
では、そんなとき、リーダーは一体どうすればいいのでしょうか。
ここでお伝えしたいのが、ある「見えない資源」の存在です。
過去の私を含め、ほとんどのリーダーは、予算、人員、工数などの「見える資源」の使い方には十分に意識を向けています。ところが、それらと同等か、あるいはそれ以上にチームの成果に影響を与える「見えない資源」の使い方には、驚くほど無自覚なのです。
この「見えない資源」の視点をもつと、「チームに何が起こっているのか」そして「なぜ、今までうまくいかなかったのか」がはっきりと捉えられるようになります。そうすれば、今、リーダーとして何をすべきかがわかるようになるのです。
その「見えない資源」こそが、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』のテーマである「心理的リソース」です。