そんなパワーソースの底力に感動だが、ステアリングの正確性にも驚きを隠せない。コーナーでは“このラインのまま出口のあそこを通過したい”というイメージをそのまま実行してくれる。だいたいあのあたりではなく、ほぼ1cmない程度の誤差で、思ったラインを描けるといった離れ技だ。これには足回りはもちろんステアリング剛性の高さがうかがわれる。この走りがドライバーの期待に応え、上質感という言葉で伝わっている気がする。
乗り心地に関してはリアにバルクヘッドを持たないツーリングという点がかえってよかった気がしなくもない。ボディ剛性の高いリムジンよりも路面からの入力をうまい具合に逃がしているようだ。ある程度逃げ道がないと、振動はそのままドライバーに伝わってしまう。
今後手にすることはできない
希少なモデル
ただ試乗車はアルピナクラシック鍛造ホイール付きの20インチタイヤを履いていた。これは微妙な気がする。標準の19インチ鋳造ホイールよりもバネ下が軽くなるというが、まだまだ乗り心地はよくなる気がする。ここ数年はスポーツ色が濃くなり少し硬めにセッティングされるアルピナだが、インチダウンすることでそれ以前のあの上質な乗り心地が手に入れられたら幸せだろう。
トランスミッションはZF社と共同開発した8速ATを搭載。駆動方式はトルクを可変配分する4WDシステムを採用し、リアに電子制御式のLSDを標準装備することで、高速域でのコーナリングを楽しくする。それにしてもこの安定した挙動はいったいどうやって実現するのだろう。
新車で買えるアルピナが少なくなったいま、こうしたモデルは希少であることは間違いない。なんといっても、いま市場で出回っている車両以外、今後手にすることはできない。D3 Sツーリングの価格は1410万円だが、「いつかはアルピナに乗ってみたい」と思っている紳士淑女の方はご一考するべき1台である。シリアルナンバーが刻まれたセンターコンソールのプレートが希少性を物語っている。
(CAR and DRIVER編集部 報告/九島辰也 写真/横田康志朗)









