かつて「世界一の大富豪」と呼ばれた石油王J・ポール・ゲティ。彼が住んでいたのは、敷地面積280万㎡の大豪邸。しかし、贅を尽くした暮らしのなかで、彼の口からこぼれたのは意外な言葉だった――お金の使いこなし方を解き明かした世界的話題作『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』の一節を抜粋して紹介する。
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「史上まれに見る金持ち」が本当に欲しかったもの
石油王として知られた実業家のJ・ポール・ゲティは、史上初めて資産が10億ドルを超えた人物のひとりであり、かつては世界一の大富豪と呼ばれた。
1963年のドキュメンタリー番組で、ゲティは700エーカー(約280万平方メートル)の敷地にある、72室を有するサットン・プレイス城でインタビューを受けている。この城は、現存する大豪邸の中でも、桁違いに華麗な邸宅として知られている。
ゲティは、現代の王様のような暮らしとはどんなものかと何度も尋ねられるが、肩をすくめる程度の答えしか返さない。巨富を築きながらも、彼が喜びに満ち溢れているわけではないのは明らかだ。最後に、どんな人のことを羨ましく思うかと尋ねられ、ゲティはこう答える。
興味深い答えだ。ゲティは、自分と同じような大富豪や、歴史上の成功者のことを羨んでいるとは言わなかった。彼が羨んでいたのは、自分よりもはるかに貧しく、成功していない人たちだった。
惨めな気持ちを抱えて生きている人は、裕福になってもその気持ちが大きく変わるとは限らない。裕福になることを追い求めている人にとって、それは受け入れがたいことかもしれない。だが、それは現実に起こり得るのだ。
多くの幸せは、お金とは無関係である
私たちが人生で幸せを感じることの多くは、お金と無関係だ。お金を持つようになってからその事実に気づくのは、辛いことかもしれない。
俳優のウィル・スミスは自伝の中で、貧しく辛い思いをしていた頃は、将来、金持ちになることを強く夢見ていたと語っている。お金があれば、あらゆる問題は解決できると信じていた、と。
しかし、実際に金持ちになってみると、こうした楽観的な考えは消え去った。十分なお金を持っていたにもかかわらず、気分は依然として落ち込み、人生には依然として問題が山積みだった。
(本原稿は、『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』(モーガン・ハウセル著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)





