では、種のない種なしバナナは、どのようにして子孫を残すのでしょうか?バナナは実をつけると枯れますが、そのとき根元に小さな株ができます。その株を切り離して別の場所に植えて育てると、花が咲いて実がなるというわけです。

画像:ブドウ接ぎ木の方法:愛知県農林水産部農業経営課普及・営農グループつくっちゃおう【果樹の接ぎ木の方法】を元に作成/ブドウの接ぎ木:Shutterstock 拡大画像表示
『農作物のひみつ』書影『農作物のひみつ』(日本作物学会、化学同人)

「種なしブドウ」は、ジベレリンという植物ホルモンで処理することで種をなくしています。ジベレリンで処理しなければ種ができます。この種を播いて育てても、ジベレリン処理による種なしの性質は遺伝子レベルの変異ではないので、種ができてしまいます。

 そのため種なしブドウは、上の図に示す「接ぎ木」(つぎき)という方法で苗木を育てます。種なしブドウの木の枝を、冬に切り取って穂木(ほぎ)とし、土台となる別のブドウの苗木〔台木(だいぎ)と言います〕に合着させるのです。この苗木をブドウ園に植えて成長させ、ジベレリンで処理すると種なしブドウを収穫できます。

 バナナの子株もブドウの接ぎ木した苗木も、胚や種子を経ずに親の性質をそのまま受け継いでいます。この方法は、栄養器官の繁殖を利用するため「栄養繁殖」と言われ、野菜や果樹で広く利用されています。

【豆知識】
 野菜では、いろいろな部分を栄養繁殖に用います。たとえば、サツマイモでは「種いも」から作った茎を、イチゴでは地面をはって伸びる茎〔「ランナー」(匍匐茎、走出茎)〕にできた子株を用い、ジャガイモやサトイモでは塊茎を、ユリやニンニクでは鱗茎を用います。