自分のフィルターに気づく方法
ただし、フィルターの存在そのものが「悪い」わけではありません。
フィルターは、その人の「個性」を作り出すものであり、横尾課長はこのフィルターのおかげでスピーディに仕事をこなし、成果を上げてきたのかもしれません。
問題なのは、自分がフィルターをもっていることに無自覚だと、それを知らず知らずのうちに周囲の人々に要求してしまいがちなことにあります。
特に、強い影響力をもつリーダーが特定のフィルターにとらわれていると、メンバーの心理的リソースに大きな消耗を生み出してしまうことにつながりかねません。その危険性は、横尾課長のエピソードから、十分に汲み取っていただけるはずです。
では、どうすればフィルターの弊害を避けることができるのでしょうか。
まず、自分がもっているフィルターを自覚することが大切です。
フィルターは知らず知らずのうちに、私たちのなかに形成されているものですから、その存在に気づくためには「意識的に探求」する必要があります。
最もわかりやすいサインは、自分の感情が強く動いた瞬間です。横尾課長は、メンバーの仕事が遅いときに、強い苛立ちを感じていましたが、そのように感情が強く反応するのは、自分のフィルターが刺激された証拠です。まさに、「あ、自分には“スピード重視”というフィルターがあるのかも」と気づけるチャンスなのです。
あるいは、メンバーからの反応も重要なサインです。
横尾課長は無意識のうちに「スピード重視が当たり前」という価値観で働いていましたが、ときにメンバーから、その価値観に疑問を呈するような反応が返ってくることもあったはずです。
たとえば、横尾課長が「もっと早くしてくれないかな?」と要請したときに、メンバーが「わかりました」と言いながら不満気な表情を見せたこともあったはずです。ときには、「この仕事は、もっと丁寧に仕上げるべきです」などと反論するメンバーもいたかもしれません。
そのような反応を受けたときに、相手をすぐに否定するのではなく、「なぜ、この人はそういう反応をするのだろう?」と考えることによって、「そうか、この人は自分と比べて丁寧さを重視する価値観をもっているのかもしれない。そして、そんな彼に反発を覚えるということはもしかすると、自分のなかには“スピード重視”というフィルターがあるのかも……」と気づくことができるかもしれません。
フィルターを「手放そう」とするより、「上書き」したほうがいい
このように、まずは自分のフィルターを自覚することが大切です。
そのうえでおすすめしたいのは、今もっているフィルターを無理に手放そうとするのではなく、新しいフィルターを獲得し、書き換えていくことです。自分のなかに染みついたフィルターを手放すのはなかなか難しいものですが、新しいフィルターを身につけることは、それを繰り返し意識していれば、比較的やりやすいからです。
たとえば、メンバーの仕事が遅くてイライラしてきたときには、「“スピード重視”のフィルターが刺激されているな」と自覚したうえで、「まぁ、待て。慣れない仕事だから時間がかかっているのかもしれない。まずは、どんな状況なのか聞いてみよう」などと、「長い目で見守る」フィルターに書き換えることで、メンバーに対してより適切なアプローチができるようになるでしょう。
あるいは、プロジェクトが難航しているときに、「失敗回避フィルター」が刺激されたときには、「何もかもうまくいったらおもしろくないもんな。こういう試練があるから、仕事はおもしろいんだ」などと「おもしろがりフィルター」に書き換えるといいかもしれません。
もちろん、フィルターは、一朝一夕で変わるものではありません。
長年連れ添ったフィルターを変えるのは勇気がいることでもあります。だけど、そのフィルターのために「望ましくない現実」が出現しているのならば、新しいフィルターに書き換えることにチャレンジしたほうがいいでしょう。それは、リーダーにとっては、自分自身の影響力に大きな変化を生み出すチャンスなのです。
(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。









