チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。
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メンバーにとって「最悪のリーダー」とは?
チームの心理的リソースを回復させたい―。
そう思ったとき、どこから手をつければよいのでしょうか。
その答えは明確です。
「まず、自分の心理的リソースを満たすこと」
ここから始める必要があるのです。
その理由も簡単です。「自分自身の心理的リソースに余裕がない」状態のリーダーを想像してみてください。
・すぐに感情的になる。
・物事を「白黒思考」で捉える。
・自分の考えを押し付けてくる。
・目の前の問題しか考えていない。
・約束やルールを守らない。
・自分のことしか考えていない。
こんなリーダーがいたら、周囲は振り回されて、心理的リソースをどんどん奪われてしまうことが容易に想像できるでしょう。つまり、リーダー自身の心理的リソースの余裕がないということは、必然的に、リーダーが「心理的リソース泥棒」になってしまうということです。
そんな状態のリーダーが、どんなに「メンバーの消耗を止めよう」「心理的リソースを満たそう」と思って、メンバーにあれこれ働きかけようとしても、さらにメンバーを消耗させるのがオチでしょう。ですから、まず、リーダーが自分自身の状態を整えることから始めることが大切なのです。
あなたは、「安心」していますか?
ところが、リーダーは「自分を整える」ことを後回しにしがちです。
特に真面目なリーダーほど、「リーダーは、自分のことよりメンバーを優先すべき」「リーダーが率先して、チームのために貢献しなければ」という思いが強いために、「自分を整える」ことをないがしろにしてしまうのです。
私もそうでした。
私が最初の会社を経営していた頃のことです。
当時、業績が思うように伸びず、「このままでは会社がもたないのではないか……」という不安のなかで、私は必死に走り続けていました。
正直、肉体的にも精神的にも疲れ切っていましたが、「もっといいチームにしたい」という思いは強く、メンバーの悩みを聴いて励ましたり、新しい仕事を取ろうと営業に奔走したり、とにかく「なんとかチームを生き延びさせなければ」と力を振り絞りながら働いていました。
そんなある日――。
あるメンバーとのの1on1で、「心理的安全性」の話題になりました。
「我が社のメンバーは心理的安全性を感じているのか?」「どうすれば、もっと安心して働いてもらえるのか?」といったことを話し合っているときに、そのメンバーがこう言ったのです。
「ふと思ったんですけど、櫻本さんは、安心してるんですか?」
そう言われて、思考停止する感覚がありました。
私が安心しているかどうか?
そんなことは考えたこともありませんでした。
しかし、たしかに、私は全く「安心」していませんでした。「このままでは会社がもたないかも……」という状態で、心のなかは「不安」だらけだったからです。
しかも、睡眠不足で体調不良になったり、心が焦って冷静な判断ができなくなったりすることもありました。メンバーに心配をかけたり、判断ミスで迷惑をかけることもあったと思います。
つまり、当時の私は、自分自身の心理的リソースが枯渇していたせいで、知らず知らずのうちに、メンバーの心理的リソースを奪っていたのです。
もちろん、あのときは、経営者としての責務を果たそうと必死だったのですが、今思えば、あのとき最も「安心」しているべきだったのは私でした。社内で最も影響力の強い私の心に「余裕」がなければ、メンバーが「この会社で働いていれば大丈夫」「このリーダーと一緒に頑張れば大丈夫」などと「安心」することなどできるはずがないからです。



