「当たり前のことを求めているだけなのに、部下が傷ついている」――もしあなたがリーダーとしてこうした悩みを抱えているなら、それはあなた自身が持つ「フィルター(色眼鏡)」が原因かもしれません。この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』でから抜粋しながら、誰もが無意識に持っているこの心のフィルターが、いかにしてチームに「望ましくない現実」を作り出し、リーダーとメンバーの心理的リソースを枯渇させていくのかを、具体的な事例を交えて解説します。

“当たり前”の指導をしているのに、部下に嫌われる上司の特徴・ワースト1写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「当たり前のこと」を言ったつもりなのに、メンバーを傷つけてしまう理由

 私たちは、あるがままの世界を見ているつもりですが、実はそうではありません。

 それぞれの人が、自分なりの「色眼鏡」をかけて世界を見ています。

 この「色眼鏡」のことを、私は「フィルター」と呼んでいます。このフィルターは、すべての人がもっているもので、決して「悪い」ものではありません。しかし、ときにこのフィルターが、私たちの心理的リソース(*)を消耗させる「望ましくない現実」を作り出してしまうことがあることに、注意を払う必要があります。

(*)心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのことで、仕事を進めるうえで必要不可欠なものです。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。

 具体的に考えてみましょう。

 ある食品会社の営業部門でリーダーを務める横尾課長は、メンバーの仕事が遅いことに悩んでいました。メンバーの仕事の進め方を見ていると、「どうして、あんな非効率なやり方をするんだ…」とイライラしてきて、「こうした方が早くできるよ」などとアドバイスするのが当たり前だと思っていました。

 それどころか、ときには、「そんなの、30分で終わる仕事でしょ。なんでそんなに時間かかってるの?」と、ついついメンバーにプレッシャーをかけてしまうこともありました。

 そんなある日のことです。メンバーのひとりである日向さんにお願いした仕事が、いつまで経っても仕上がってこないことに痺れを切らした横尾課長は、「あなたはいつも仕事に時間がかかりすぎですね。副業でもしてるんじゃないですか?」と思わず苛立ちをぶつけてしまったのです。

 すると、その剣幕に驚いた日向さんは、泣きながらこんなふうに訴えました。

「遅くなってしまって、本当にすみません。お客様の要望が思ったより複雑で……、今までに対応したことのない要望も含まれていて……、間違いがあってはいけないと思って、いろいろな人にヒアリングしていたら、時間がかかってしまって……本当にすみません」

 横尾課長はハッとしました

 日向さんに依頼した仕事が、そんな状況にあるとは思いもしなかったからです。たしかに、膨大な情報を集めながら、慎重に仕事を進めるためには、このくらいの時間がかかってもおかしくありません。

 そうした事情があることを知りもせず、日向さんを一方的に責めたうえに、就業規則で禁止されている「副業」を疑ったのは行き過ぎでした。そのことを恥じた横尾課長は、「事情を知らずに責めるようなことを言ってしまいました。ごめんなさい」と素直に謝りましたが、後の祭り。日向さんはほどなくして会社を辞めてしまったのです

無意識にもっているフィルターが、自分とチームを消耗させている

 ここでの問題は何だったのでしょうか。

 それは、横尾課長が「スピード重視」という強固なフィルターをもっているがゆえに、メンバーの仕事のスピードが遅いときに苛立ちを感じ続け、その不満が心のなかに蓄積していたことです。

 そして、その不満のせいで心理的リソースを消耗していた横尾課長は、自分には見えていないところで、メンバーが努力していることや、苦労していることを想像する「心の余裕」を失っていたのです。

 あるいは、自分の「スピード重視」という価値観にとらわれすぎて、日向さんのように「お客様のために丁寧に仕事をする」といった価値観をないがしろにする傾向もあったかもしれません。

 そのため、横尾課長から「早く仕上げろ」というプレッシャーを受け続けた日向さんは、心理的リソースを枯渇させていた可能性もあるでしょう。

 そして、最終的には、日向さんの仕事が遅いことに苛立ちを抑えきれなくなった横尾課長は、理不尽な怒りを爆発させます。そして日向さんの退職という、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいました。このように、横尾課長の「スピード重視」というフィルターが、「望ましくない現実」を作り出していたのです。

 この「スピード重視」以外にも、リーダーがもっていると、自分やチームを消耗させがちなフィルターはいくつも存在します。

 たとえば、「完璧主義フィルター」。このフィルターをもっているリーダーは、「できていること」ではなく「できてないこと」にばかり着目しがちです。その結果、プロジェクトの95%が順調に進んでいても、残りの5%の遅れが気になって、メンバーに批判的なことばかりを言ってしまうといった誤ちを犯しがちです。

 あるいは「失敗回避フィルター」。とにかく失敗したくないがために、メンバーをマイクロマネジメントすることで消耗させてしまったり、「自分の間違い」を認められずに周囲の信頼を失ってしまうといった状況を招きがちです。

最悪のフィルターは何か?

 なかでも“最悪のフィルター”と言えるのが、「自己否定フィルター」です。

 なぜなら、「自分には価値がない」「自分は愛されない」「自分はリーダーの器ではない」といったフィルターをもっていると、あらゆる情報が「自分への否定」に変換されてしまうからです(下図参照)。

 たとえば、「この資料は、もう少しよくできそうですね」というコメントが、「この資料はこのままではダメですね」という意味に聞こえたり、ほんのちょっとした失敗をしただけで、「自分はやっぱりダメだ」と決めつけてしまったりしてしまうのです。

 さらに、自分を否定した(と感じた)相手に対して怒りの感情が生まれて、その人との「よい関係」を築けなくなることもあります。このように「自己否定フィルター」は、「毒」のようにリーダー自身やチームをむしばんでいくのです。

“当たり前”の指導をしているのに、部下に嫌われる上司の特徴・ワースト1