チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。
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自分の「状態」に気づくことが、リーダーの最初の仕事
チームを活性化するためには、まずリーダー自身が自分の心理的リソースを満たすことが大切です。
リーダーが疲弊しているようでは、チームを元気づけることなど不可能。チームをよりよい状態にするために、メンバーに働きかけようとする前に、まずは、自分の心を満たし、「余裕をもつ」ことが欠かせません。心の「余裕」のない状態で、イライラを隠しながらマネジメントをしても、状況を悪化させることにしかならないのです。
では、「余裕をもつ」ためには何をすればよいのでしょうか。
まずは、「自分の状態に気づく」ことです。
考えてみれば当然のことです。「自分が、いま心理的リソースがすり減っている」ということに気づかなければ、何も始まりません。
ところが、ここに問題があります。心理的リソースが枯渇すると、視野が狭くなるために、自分の状態に気づくのが難しくなるのです。
たとえば、仕事がうまくいかないときに、「もっと頑張らなければ!」と思い込んで、自分を追い込むばかりになってしまうと、自分の心理的リソースが枯渇していることに気づけなくなってしまいます。
だから、忙しくて余裕がないときほど、意識的に「自分を振り返る時間」をもつことをおすすめします。できれば、週に1回、曜日と時間帯を決めて、5分ほどで構わないので、「自分を振り返る」ことを習慣にするといいでしょう。
そして、「いま、自分の心理的リソースはどれくらい満たされているのか?」「何に心理的リソースを使っているのか?」「どこから心理的リソースが生まれているのか?」を見つめるのです。
自分を振り返るワークシート
ここでは、ワークシートを使った振り返りをご紹介します。
まず、下のワークシートをご覧ください。
そして、このワークシートに沿って、次の2点を振り返ってみてください。
・自分の心理的リソースが最高に満たされた状態を10点として、今は何点か?
・「アタマ・ココロ・カラダ」に分けるとそれぞれ何点か、その理由は?

今、この原稿を書いている私を例に考えてみましょう。
私にとって、心理的リソースが最高に満たされた「10点」の状態とは、心身ともにエネルギーが満ち溢れて、集中力があり、どんどん仕事がはかどるような状態です。
その状態と比べると、全体としてはなんとなくスッキリしない感じがあります。頭がぼやっとしている感じもします。とはいえ、仕事に集中はできているので、全体としては「5点」くらいでしょうか。
カラダについては、眠いし、だるい感じもするので「3点」。ココロは、やる気は満ち溢れているけれど、不安もあるので「7点」。アタマは、気が散りがちで、集中できないので「4点」といったところです。
「そんなに適当でいいの?」
そう思われるかもしれませんが、点数は本当にざっくりで構いませんし、その理由もシンプルで構いません。あまり深く考え込まずに、「アタマ・ココロ・カラダ」に意識を向けて、さっと思いついたことを書き出す程度で大丈夫です。
「何に心理的リソースを費やしたか」を振り返る
次に、下のようなワークシートに、次の2点を書き出してください。
・この1週間、自分の心理的リソースを減らしていること
・この1週間、自分の心理的リソースを増やしていること

このワークシートを参考に、心理的リソースの増減の「量」に応じて、文字を記入する「枠」の大きさを変えるようにしてください。そうすることで、どの要素が大きな影響をもたらしているのかを一目で把握することができるようになります。
ここでも、今の私を例に考えてみましょう。
この1週間、「アタマ」の領域では、もっぱら執筆中の本の執筆に心理的リソースを費やしています。
しかし、執筆は私にとっては「楽しい」タスクでもあります。文章を書くために頭を使うと疲れるのですが、「うまく書けたぞ!」というときには、心理的リソースが満たされることもあります。
このように、リソースを減らすこともあるし、増やすこともあることは、「心理的リソースが増える」側と「心理的リソースが減る」側の両方に書いておきます。執筆については、「減る側」の量が大きいので大きめの枠で囲み、「増える側」の量はそこそこなので、中くらいの大きさの枠で囲みました。
その他にも、「会社の長期的な計画づくり」という重要なタスクにも多くの心理的リソースを費やしていますし、「講演の準備」「イベントの企画」といった比較的小さなタスクのことも気になっているので書き込んでおきました。
次に「ココロ」の領域で起きていることを見つめてみます。
「原稿の締め切りに遅れたらどうしよう……」という焦り、「執筆のために本業に遅れが出て、周囲の人に迷惑をかけている」という申し訳なさなどの感情によって心理的リソースを費やす一方で、「いい原稿を書いて、多くの読者に読んでほしい!」「執筆が終わったら飲みに行くぞ!」というワクワク感が心理的リソースを生み出しています。
最後に「カラダ」について確認します。「カラダ」の領域で心理的リソースを最も消費しているのは、明らかに「睡眠不足」です。深夜まで執筆作業を続けるために、睡眠時間を削らざるをえないのが実情。そのため、朝起きたときから頭がぼやっとしている状態がずっと続いているのです。
「自分の状態」に気づくことの意味
こうして書き出してみると、いろいろなことが見えてきます。



