「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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なぜ、同じ組織内でも
意思決定の速さに差が生まれるのか?
何度会議を重ねても、なかなか合意に至らない。方針は見えてきたけれど、具体的な最初の一歩が出てこない。そんな状況に心当たりはないでしょうか。
意思決定が速いチームは、単に「思い切りが良いから速い」というわけではありません。
実際には多くの人が、判断材料が曖昧なままでは動きたがらず、その慎重さがスピードを鈍らせる場面も少なくありません。
つまり、意思決定の速さを左右しているのは決断力の有無ではなく、判断の前提が揃っているかどうかです。前提が整っていれば迷わずに進める一方で、整っていなければどれだけ決断力があっても判断は揺らぎます。
では、この前提を形成している根源的な要素は何でしょうか。
鍵となるのが、抽象化されたビジョンです。
抽象化されたビジョンを持つチームは、
迷わない
意思決定が速いチームは、明確なビジョンを共有しています。
ここでいうビジョンとは、単なる数値目標やスローガンではなく、「何のために事業を行うのか」という抽象度の高い目的です。パーパスと言い換えると理解しやすいかもしれません。
このビジョンがチームの“起点”として機能していると、判断に一貫性が生まれます。
提案が上がってきたとき、課題に直面したとき、方向性に迷ったときでも、よりどころとなる基準がはっきりしているため、合意形成がスムーズになります。
一方で、ビジョンが曖昧なチームでは、判断基準が人によって異なりがちです。
「どちらの案がよいか」ではなく、「そもそも何のためにやるのか」から毎回議論を始めざるを得ず、ゴールも定まらないため提案が迷走し、手戻りが続きます。こうして意思決定は自然と遅くなります。
抽象化されたビジョンは、メンバー全員の視点を揃える役割を果たします。
目的が共通化されることで、何を優先すべきか、どの方向へ進むべきかといった判断の軸が一致します。そのため、判断が速くなるだけでなく、意思決定の質も安定していきます。
目的を抽象化することで、
戦略の幅が広がる
モノづくり・コトづくりの時代には、個別の製品やサービスを起点に価値を設計してきました。
しかし、ユーザや社会とともに価値を共創する「場づくり」の時代においては、企業がどこに向かうのかという大きな文脈が欠かせません。
抽象化されたビジョンは、チームの取り組みを統一する“共通の方向性”として機能します。
目的が明確であれば、部門やプロジェクト、時には企業の枠を超えて価値創出の軸を共有しやすくなり、多様な関係者と協働する際の共通基盤にもなります。
なぜその施策をとるのか。何を達成したいのか。
その問いを、目的から捉え直すことで、企業が提供しうる価値の幅は大きく広がります。
大切なのは、手段に縛られず、提供価値の本質を捉えることです。
抽象化という視点を持つことで、戦略の幅は飛躍的に広がっていきます。
『戦略のデザイン』では、この抽象化されたビジョンをいかに描き、組織で共有し、実行へとつなげるかを体系的に整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




