「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「日経平均の高騰」を支えるAI関連銘柄――バブルに踊らされず収益化するために必要な視点Photo: Adobe Stock

日経平均の過去最高値は、
本当に景気の回復なのか?

 日経平均株価が過去最高を更新し、メディアでは「新たな成長局面へ」といった市場の熱気を強調する見出しが並んでいます。中には「来年には6万円を突破する」という強気の見通しを示す声もあります。

 しかし、この上昇が日本企業全体の成長を反映したものかといえば、話は少し異なります。

 実際には、AI・半導体関連の一部銘柄が指数を強く押し上げているにすぎません。市場全体の地合いというよりは、特定テーマに資金が集中している構図に近いのです。

 株価が強気に振れるほど、「AIがすべてを変える」「この波に乗り遅れるな」といった雰囲気に流されがちです。

 しかし、この空気に身を委ねてしまうと、本質的な競争領域が見えなくなってしまいます。

データセンターや生成AIモデルは、
いずれコモディティ化する

 足元で市場が熱狂している領域は、データセンター(インフラ分野)と生成AIモデル(基盤モデル分野)の、大きく分けて2つです。

 いずれもAI時代を支える重要な土台であることに疑いはありません。

 しかし、これらの土台にあたる領域は、社会全体で価値を共有する「非競争領域」に属します。時間が経つほどにコモディティ化し、個別企業が差別化し続けるのは困難になっていきます。

 たとえばデータセンターは、資本力のある企業がスケールを武器に市場を取っていく構造になり、差別化の余地は限られます。

 生成AIモデルも、当初こそ革新的な差異がありましたが、各社が追随するにつれて性能差より価格や使い勝手が競争軸となり、徐々に均質化が進んでいます。

 つまり、今まさに市場が盛り上がっているAI関連銘柄は非競争領域に属するものであり、今後も同じ勢いで成長し続けるとは限りません。

最後に残る競争領域は
「局所的課題を解決するアプリケーション」

 では、この先、どこに競争優位が生まれるのでしょうか?

 インフラが整い、モデルが均質化すればするほど価値の中心は、特定の現場が抱える具体的な課題をどれだけ深く理解し、解決できるかに移っていきます。

 たとえば、建設現場の工程管理を最適化するAI、小売の在庫ロスを最小化するAI、B2B営業の受注確度を定量化するAIといった、局所的課題解決こそ最も価値が生みだせる領域であり、最も他社に模倣されにくい領域となっていきます。

 こうした状況になると、もはや単なる技術力だけでは勝てません。

 現場の課題の解像度を高め、戦略としてどう組み立てるかが問われる世界になっていきます。

 だからこそ、非競争領域で不要な消耗を続けるのではなく、本来競争すべき領域で、どれだけ価値を高められるかという発想が重要になります。

 AI市場は今後も拡大するでしょう。

 しかし、今その中心にいる企業が必ずしも勝つとは限りません。

 むしろ重要なのは、次の問いです。

誰の、どんな課題を、どう解決するのか?

 この問いに明確な答えを持つ企業だけが、AIバブルの波に飲み込まれることなく、その流れを自社の成長へと変えていくことができます。

『戦略のデザイン』では、非競争領域と競争領域をどう見極めるかなど、これからの時代に通用する戦略思考を、具体的な事例とともに解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。