「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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効率化ツールを使っても仕事は速くならない
昨今のAIブームを背景に、多くの企業がさまざまなAIエージェント(複数の作業を自動化できるAIツール)を開発し、業務の効率化を急速に進めています。
あなたの会社でも、生成AIを使った効率化ツールを導入しているかもしれません。
しかし、それらを使えば誰もが仕事を劇的に速くできるかというと、必ずしもそうではありません。
メールの返信が多少早くなる、レポート作成の時間が少し短くなるといった程度にとどまるケースも多いのが実態です。
むしろ、会社の指示通りに効率化ツールを使うだけでは、あなたの仕事自体が近い将来AIに代替されてしまう可能性すらあります。
どれだけ仕事を細かく分解できるか
仕事が速い人かどうかは、実はたった一つの問いで見極めることができます。
「いま取り組んでいることを、紙に書き出してもらえますか?」
返ってくる答えが「資料作成」「顧客調査」といった大まかなキーワードだけであれば、その人は作業を構造的に捉える力が弱く、仕事が遅いタイプかもしれません。
一方で、10個でも20個でも、具体的な作業をスラスラと言語化できる人は、業務の全体像と工程を正しく把握しており、作業スピードも高い傾向があります。
たとえば、「資料作成」を分解すると、次のような作業が存在します。
・資料の目的・ゴールを明確化する
・読み手(ターゲット)の前提知識や期待を整理する
・資料全体の構成(アウトライン)を作成する
・必要な情報・データ・参考資料を収集する
・情報を整理し、論点や主張をまとめる
・ストーリーライン(論理展開)を組み立てる
・各ページのメッセージと構成案を作成する
・グラフ・図表・数値などを作成・整形する
・スライドのデザイン(レイアウト・表現)を整える
・レビューを行い、指摘事項を反映する
「資料作成」という一言の裏側に、これだけの作業が存在しています。
つまり、作業をどの粒度で捉えているかが、その人の仕事の進め方を大きく左右するのです。
作業に落とし込めば、強みにフォーカスできる
全体像を作業単位まで細かく落とし込めるようになると、各工程の進め方や所要時間を見通しやすくなります。
また、工程を分解したプロセス自体が、自分の得意・不得意を把握するための重要な手がかりにもなります。
たとえば、得意な作業に集中し、苦手な部分は他者や生成AIに任せる判断がしやすくなります。不要な工程が見つかれば、思い切って削除することもできます。
このように業務の構造を理解したうえで取り組むことで、仕事の質とスピードは大きく改善していきます。
そして何より、業務を構造的に捉える力が身につけば、AIに置き換えられる側ではなく、AIエージェントを設計し、活用する側へと回ることができます。
『戦略のデザイン』では、組織における戦略実行の仕組みや、これからの時代に求められる思考法を具体的な事例とともに紹介しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




