「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「効率的に結果を出す人」と「忙しいだけの人」の決定的な違いとは?Photo: Adobe Stock

なぜ、忙しく働いているのに
結果につながらないのか?

 あなたの周りには、毎日定時に帰り、長期休暇も確実に取得しているのに、安定して成果を出し続けている人はいないでしょうか。

 一方で、日々忙しく働いているにもかかわらず、思うような成果が出ていない人も見かけます。

 この違いは、単純な能力や努力量では説明できません。

 忙しいだけの人は、目の前のタスクに反応的に飛びついてしまい、「仕事をしている感」は積み上がるものの、結果につながる活動に時間が割けていないことが多くあります。

 効率的に結果を出す人は、目の前の作業に取りかかる前に、課題全体の構造を捉えています

 そのうえで、目的に照らして「やらないこと」を先に整理するため、余計なタスクに振り回されずに済むのです。つまり、「捨てる判断」を先に行っているのです。

 では、この「捨てる力」はどこから生まれるのでしょうか。

効率的な人が実践しているのは、
幅を出してから絞り込むこと

 効率的に成果を出す人は、最初から「やるべきこと」をリストアップするところから入るわけではありません。

 むしろ、はじめに課題に対してどのような方向性や解決策があり得るのかを、思いつく限り幅広く洗い出します。そのうえで、企業や事業、チームの目的や提供価値と照らし合わせながら、本当に意味のある選択肢だけを残していきます。

 なぜ、自分たちがその課題に向き合うのかという目的を押さえたうえで、どの選択肢が価値につながるのかを丁寧に見極めていく。この一連の流れは、抽象的な目的と具体的な手段を行き来しながら整理するプロセスといえます。

 課題の本質を捉え直し、どの方向性が理にかなっているのかを検討し、そこから具体的な候補を手繰り寄せていく。そうしたプロセスを経ることで、「やるべきこと」と「やらないこと」が自然と整理されます。

 広げた選択肢を、一度目的に立ち返って見直し、そこから絞り込む。この往復が、結果につながる仕事の質を高めているのです。

 一方、忙しいだけの人は、こうした整理のプロセスを省いてしまいがちです。

 具体的なタスクだけを見て優先順位をつけようとするため、全体像がないままタスク同士を比較し続けることになり、判断基準が安定せず、結局は目の前の依頼を次々とさばくことになってしまいます。

「捨てること」は、戦略の本質である

 戦略とは本来、どこに資源を投じ、どこに投じないかを決めることです。

 成果を出している人が実践しているのは、手を広げないという姿勢ではありません。

 まず可能性を広げ、そのうえで目的と照らして選び取る。そのプロセスの中で、全体を視野に入れつつ、俯瞰した視点で「捨てる判断」を行いながら優先順位を見極めています

 やみくもに活動を増やせば、時間もエネルギーも分散し、成果に結びつきにくくなります。

 しかし、明確な基準をもって不要な選択肢を手放せば、自ずと力を注ぐべき領域に集中できるようになります。そして、この考え方は、個人にも組織にも共通するものです。

『戦略のデザイン』では、この「幅を出し、意味のある基準で絞り込む」という思考法を、戦略の出発点として体系的に整理しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。