【解説】「安さ」の理由を定性的に読み解く

では、単純な「公式」「スクリーニング」の外にある正解に近づくために、私たち個人投資家は具体的にどのような視点を持つべきなのでしょうか。

スクリーニングで抽出された「割安株」には、二種類あります。一つは市場の誤解や無関心によって放置されている「本物の割安株」。もう一つは、将来の成長が見込めないために安値で妥当と判断されている「万年割安株(バリュートラップ)」です。

PERなどの数字はあくまで結果に過ぎません。数字の裏側にある「なぜ安いのか」という理由を決算資料や業界動向から定性的に読み解き、その安さが「一時的な誤解」なのか「構造的な問題」なのかを見極めるプロセスこそが、勝率を高める鍵となります。

変化のきっかけ「カタリスト」に注目する

割安な株がいつ適正価格に修正されるかは誰にも分かりません。しかし、修正を早める「カタリスト(材料)」の有無を確認することは可能です。

例えば、経営陣の交代、積極的な株主還元策(増配や自社株買い)の発表、あるいは業界再編の動きなどです。ただ漫然と待つのではなく、市場がその企業を再評価せざるを得なくなるような変化の兆しがある銘柄を選ぶことで、「10年の不調」に巻き込まれるリスクを軽減できます。

不確実性を前提とした「シナリオ」を持つ

歴史が証明するように、絶対的な必勝法が存在しない以上、一つの手法や銘柄に依存するのは危険です。

「割安だから必ず上がる」という期待を捨て、「上がらない期間が続いたらどうするか」「シナリオが崩れたらどこで撤退するか」という出口戦略をあらかじめ持っておくこと。

単純な公式に頼らず、常に自分の頭で考え、リスクを管理し続ける姿勢こそが、長く市場で生き残るための唯一の「正解」と言えるでしょう。

※本稿は『最後に勝つ投資術【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。