【高齢の親を施設に入れる前に】知らないと絶対後悔するポイント
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から贈与税の新ルールが始まるため、その注意点を聞きました。

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【高齢の親を施設に入れる前に】知らないと絶対後悔するポイント

 本日は「相続と介護」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

 最初に押さえておきたいのは「相続の話は、介護の話を経由すると自然に進む」ということです。いきなり遺産分割や遺言の話に入ると、親にとって心理的な抵抗が大きくなることがあります。しかし介護の希望を確認することは、現実の生活に直結する話であり、家族の安心のための話として切り出しやすい。しかもその過程で、財産管理の話題が不可避に出てきます。結果として、相続へも無理なく接続します。

 話の入り口として具体的なのは、「施設に入りたいか、できれば入りたくないか」という問いです。この聞き方をすると、多くの方は「できれば入りたくない」とおっしゃることが少なくありません。住み慣れた家を離れ、集団生活になることへの不安があるため、在宅を希望する方が多いという点は、まず理解しておきたいところです。

 もっとも、在宅を希望される場合も、最初は「自分のことは自分で行う」と言われることが多い一方で、現実には加齢や体調の変化によって次第に難しくなり、ご家族の支援が必要になっていきます。ご本人は「まだ大丈夫」と考え、ご家族は「施設に入ったほうが安心ではないか」と感じる。このギャップは、多くの家庭で起きています。

在宅介護の限界とは?

 在宅介護の限界の目安としては、たとえば「一人でお風呂に入れなくなった」「火の始末が自分でできなくなった」といった状況が挙げられます。こうした状態で在宅を無理に続けると事故のリスクが高まるため、丁寧に説得し、施設の利用を検討する必要が出てくることがあります。実際には、当初は拒否していた方が数か月後に施設入所を受け入れるケースもあれば、最後まで頑なに拒否されるケースもあります。拒否が続くと、介護を担う側が精神的に追い詰められてしまうこともあり得ます。

 だからこそ、相続の前段階として「介護が必要になったとき、どうしたいか」を共有しておくことには大きな意味があります。そして、この介護の話を進めていくと、自然に「財産の管理」の話へつながっていきます。

 たとえば、預金がどこにあるのか、認知症になってしまったときに誰にどのように管理してほしいのか。不動産が老朽化しているなら、リフォームをしてほしいのか、あるいは売却して施設費用に充ててほしいのか。こうした確認は、相続の入口としてだけでなく、緊急時に家族が困らないための実務そのものでもあります。

 年末年始に相続についてすべきことは、「いま決め切る」ことではなく、「困らないための前提をそろえる」ことです。介護の希望を確認し、財産管理の方針を共有し、その延長線上で相続へと話題を進めていく。そうすることで、遺言書や生前贈与、相続税対策といった、元気なうちにしかできない準備に、無理なく着手しやすくなります。年末年始は、その最初の一歩を踏み出すのにふさわしい機会だと言えるでしょう。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)