ストーカー息子を激変させた母親の「まさかの行動」に父親も衝撃…親子関係が好転したポイントとは【マンガ】『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社

さまざまなメディアで取り上げられた押川剛の衝撃のノンフィクションを鬼才・鈴木マサカズの力で完全漫画化!コミックバンチKai(新潮社)で連載されている『「子供を殺してください」という親たち』(原作/押川剛、作画/鈴木マサカズ)のケース6『「ふつう」の家庭に育つ闇・後編』から、押川氏が漫画に描けなかった登場人物たちのエピソードを紹介する。(株式会社トキワ精神保健事務所所長 押川 剛)

ストーカーの息子を激変させた母親のまさかの行動

 トキワ精神保健事務所の「精神障害者移送サービス」にはさまざまな相談が舞い込む。今回は前回に引き続き、元交際相手の女性に刃物を向けてしまったという宝田由伸(23歳・仮名)のケースだ。いまだにストーカー行為をやめられない息子をどうにかしたいという両親がやってくる。

 由伸の治療をしてくれる精神科病院の確保は難航した。保健所とも連携し、何件もの病院に問い合わせた結果、ようやく見つけることができた。

 そもそも再犯防止を目的としたストーカー加害者に対する精神医学的・心理学的アプローチは、日本ではまだ道半ばといったところだ。警察は地域の精神科医療と連携し、加害者に治療やカウンセリングの受診を勧めるなどしている。しかし強制力はなく、あくまでも本人の任意に基づく。

 ちなみに、令和4年の精神保健福祉法改正により、第5条から「精神病質」が削除され、医療保護入院に「6ヶ月以内」という期限が設けられた。これにより、薬物療法が効きにくい、処遇対応困難な精神病質傾向のある人に対して、医療につなげる法的根拠がなくなった。

 ストーカー傾向のある人物に対しても、薬物依存症やアルコール依存症の人と同様、治療意思がなければ、ほぼ治療の対象とならなくなったのである。

 移送の日を迎える前、私は両親に、「この件を機会に、息子と本音で向き合ってほしい」と伝えた。

 子育てにおいて大きな問題もなく、いわゆる「普通」に過ごしてきた家庭こそ、親子間で核心に至る話ができていないことが多い。私が考えるに、心から安心できる人間関係とは、真実を伝えあうことで育まれる。しかし家族ほど、言いづらいことに関してはそれができない。なぜなら真実を伝えあうとき、そこには大なり小なりの摩擦が起こるからだ。

 問題なく普通に見える家族では、ことさらに摩擦を嫌がりがちだ。衝突を避け、本音を隠すことで、波風を立てないようにする。そこには常に小さな緊張感がある。問題がないのではなく、掘り起こさないよう、全員が息をひそめているのだ。

 由伸の家庭には、まさにそういった空気感が流れていた。だからこそ私は、あえて「息子と本音で向き合ってほしい」という課題を突き付けた。

 移送当日、まずは父親が由伸と話をした。父親は一生懸命ではあったが、あくまでも節度を保って由伸に接した。「何が何でもお前を止めるぞ」という、親だからこその気概は感じられなかった。由伸もただ淡々と、今までどおりの主張を繰り返している。

 これではらちが明かないな、と私が思ったとき、母親が由伸の頬を打った。

 母親はおおよそ他人に手を挙げるような人物ではない。そういう人が、息子の頬を打ったのだ。「普通の枠」にとらわれてきた親が、安全な距離感を捨てて息子の心に踏み込んだ瞬間だった。

 由伸はつき物が落ちたかのように、「病院に行きます」と言った。

 精神科病院の入院後、私は由伸と直接接することは避け、両親のサポートに徹した。そして由伸が退院する際、両親は「実家の敷居はまたがせない」と条件を出したうえで、由伸に1人暮らしをさせると決めた。

 私は数年後に、両親と会う機会があった。父親はあれから、仕事がある日も休日も毎日、息子のアパートに通ったという。

 そこでどのようなやり取りがあったのか、詳しくは聞いていない。しかし、「毎日顔を見に行く」という行為が、口で言うほど容易いものではないことは分かる。ある意味それは、「枠」を超えた行動だ。

 私はその日、由伸の就職先であるお店に車を走らせた。本人に見つからないよう、店外から様子を伺う。そこには、引き締まった顔つきで接客に駆け回る彼の姿があった。


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