相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。
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否定をするときには「代替案」を
打ち合わせで気をつけているのは、「代替案のない否定はしない」ことです。否定だけだと、「それはダメです」で議論が止まってしまう。相手は「じゃあどうすればいいの?」となり、その先に進めなくなります。
でも、「これはこういう理由で難しいと思います。例えばこういう方向はどうでしょう?」と言えば、相手も「いや、それよりもこっちのほうが」と返せる。代替案があることで、対話が続いていくのです。
それに、代替案を出すということは、なぜダメなのかを考え抜かなければならない、ということでもあります。何が問題なのか、どこを変えればよくなるのか。否定の理由が明確になるからこそ、代替案が出せる。そして、その理由が明確だからこそ、相手にも伝わるのです。
クライアントにも、否定をするときはできるだけ代替案を出していただくようにしています。提案に対して否定をするのは、まったく構わないのですが、次のステップに進むためのヒントを必ずもらうようにするのです。
どうしてダメなのか。何がいけないのか。黒い色が嫌だというなら、何色であればいいのか。そもそもどうして黒い色が嫌なのか。違う色にするとすれば、どんな色がいいと思っているのか……。そんな質問も投げかけながら、議論を前に進めていきます。
もちろん僕たちの側も同じです。クライアントが大切にしてきたものに対して、ここは変えたほうがいいと思う。このままではゴールに近づけない、ブランドにプラスにならないと思う。そういうときには、代替案を添えて異を唱える必要があります。
でも、良い代替案さえ用意できればいいかというと、そうではありません。いくらすばらしい提案でも、あるものがなければ、絶対に受け入れてもらえません。
それは、信頼です。
相手には、そこに至るまでの思い入れがあります。長年かけて、誰よりも真剣に、誰よりも考えて積み上げてきた。それを急に変えましょうと言われて、はいそうですか、とはならない。
こういうときに大事なのは、すぐに代替案を出すことではなく、まず思いの丈をしっかり聞くことだと思っています。
なぜそうしてきたのか、何を大切にしてきたのか。とことん聞く。同じ話を何度聞いても、聞く。
相手の歴史、思い、大切にしてきたもの。その全部を、自分の言葉で語れるくらいにまで理解したい。そこまでいって初めて、相手と同じ景色が見えるようになるからです。
実際に、新しいアイデアはすでに浮かんでいるのに、あえて提案せずに、時間をかけて、何度もお話を聞き続けたことがあります。
焦る気持ちがないわけではありません。業界の変化は早い。早く手を打たなければ取り返しのつかないことになりかねない。
でも、とにかく話をうかがいました。クライアントがこだわってきたこと、大きなきっかけとなった出来事。迷いや不安。そういったものをただ受け止め続けました。
同時に、ごくごく小さな提案を一つひとつ重ねていきました。ブランディング全体でみれば、ささやかな部分です。でも、小さなことでも、結果がついてくれば、信頼は積み上がっていきます。
「この人たちは、わかってくれている」
そう思ってもらえたと感じたとき、ようやく核心に踏み込む提案をしました。
受け入れていただけたのは、提案の中身だけではなく、そこに至るまでの時間を一緒に過ごしたからだと思っています。
クライアントには喜んでいただきたい。でもそれは、結果を出すことによって、でありたい。それで感謝していただけることが、最も大きな喜びです。そのためには、時間をかける必要があるケースもあるのです。
※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。







