「子どもが熱を出したので、今日はお休みをさせてください」。そんな話を聞かされたとき、私たちはつい「大変ですね」と返してしまいがちだ。だがその一言は、あなたが思っている以上に冷たく伝わっているかもしれない。では、感じのいい人ならどう答えるだろう。本稿では、18言語で話題の世界的ロングセラー『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の内容に触れながら、「大変ですね」に変わる一言を紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局・三浦岳)

【身内が病気】感じのいい人は「大変ですね」ではなく、何と声をかける?Photo: Adobe Stock

人間関係は「一点集中」が必須

 現代では、スマホやSNSに囲まれて、私たちは知らず知らずのうちに気が散りやすくなっています。そんな中、いくつものことを同時にこなしているほうが「できる人」のように言われがちです。

 しかし『一点集中術』の著者、デボラ・ザックは、一度に2つ以上のことをこなそうとすると、生産性が下がるだけでなく、人間関係まで悪化させてしまうといいます。気が散った状態でいる人は、非効率なだけでなく、ときに不注意で失礼な人と見なされてしまう、と。

 特に、他者とのコミュニケーションにおいて、この「集中力の欠如」は致命的です。

 誰かと話している最中にスマホを操作したり、心ここにあらずのまま話を前に進めたりすると、その行為は相手に「あなたは重要ではない」という無言のメッセージとして伝わってしまいます。

 だからこそ、会話のあいだだけでも一点集中で相手に向き合う姿勢が、信頼を左右します。

「身内が病気」と言われたら?

 では、たとえば仕事やプライベートなどで、「子どもが風邪をひいたので今日はお休みさせてください」などといった事情を打ち明けられたとき、感じのいい人、つまり「一点集中術」を実践できている人なら、何と返すでしょうか。

 それは通り一遍の「大変ですね」という言葉ではなく、次のような言葉です。

「それは心配ですね。◯◯さんも無理しないでくださいね」

「困ったことがあったらなんでも言ってくださいね」

「私にできることがあったら言ってくださいね」

 これらは、とくに気の利いた言い回しではありません。しかし、目の前の相手に集中して、状況を想像し、相手の事情を慮っている言葉です。

 こうして相手に完全に集中し、相手のことを真剣に考えて言葉をかわすのが信頼を築く鍵なんです。

 この点について、著者はクライアントの事例を紹介しています。

 先日、私はあるクライアントの男性と話をしていた。彼は、新たに迎えた上司について、こんな話をした。
「新しい上司は、私のことを尊重してくれています」
「尊重されていることが、どうしてわかるんです?」
私の話を親身になって聴いてくれるんですよ。私も上司の話を真剣に聴いていますから、私が上司を高く評価していることが、本人にも伝わっているはずです」――『一点集中術』より

 このように、相手を尊重していることは、「親身になって聴く」という行動を通じて伝わります。

 これは、単に情報を「聞く(ヒアー)」のではなく、相手の言葉の真意を汲み取ろうと意識的に行う「聴く(リッスン)」という姿勢にほかなりません。

「信頼できる人」の秘密

 他のことに気もそぞろでだらだらと対応するよりも、短い時間でも一点集中で対応するほうが、人は「大切に扱われた」と感じると著者は言います。

 私たちが他者から「信頼できる人」と見なされるか、「いいかげんな人」と見なされるかは、この「一点集中」の姿勢にかかっています。

 目の前の相手への敬意を行動で示し、その人の話に完全に集中することこそが、人間関係を濃密で強固なものにし、結果的に人望を集める秘訣です。

『一点集中術』は、仕事の効率を高めるためだけの技術ではありません。他者の言葉にどう応じるかという、日常のなにげない場面においてこそ、その真価が問われるのです。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』に関連した書き下ろし記事です)