仕事や人間関係において、批判や理不尽な言葉を受けたとき、つい反論したくなる場面は誰にでもある。しかし反論の仕方によっては、状況を改善するどころか、無意味な対立や消耗を招いてしまう。そんな対応の上手な人、下手な人の差はどこにあるのか? 18言語で話題の世界的ベストセラー『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』から、訳者の栗木さつき氏にヒントをうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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頭の悪い反論の共通点
――批判されたり納得できないことを言われたときでも、反論のしかた1つで発展的なやりとりに変えられる人がいます。一方で、「そんな言い方しなければいいのに……」という返し方をする人もいます。
栗木さつき氏(以下、栗木):本書の視点から見ると、そんな「利口じゃない反論」には、わかりやすい共通点があります。それは、反論に入る前に、ほぼ必ず口にしてしまう一言です。どんな言葉かというと、「でも」「いや」「それは違う」といった、即座の否定の言葉です。
この一言が出た瞬間、その人はもう「問題解決」ではなく、感情の土俵に上がっています。相手の話を理解する前に、自分の立場やプライドを守ろうとしている。
本来すべきなのは、「相手を言い負かすこと」や「自分の正しさを証明すること」ではなく、互いにとって有益な結果を生み出すことです。
ところが、「でも」「いや」と反射的に反論してしまうと、問題の本質から離れて、対立に光が当たってしまいます。
――たしかに感情的な対立が生まれて話がこじれるパターンはよく目にします。
栗木:はい。しかも本人は、その自覚がありません。「自分を否定された」「黙っていたら負けた気がする」と感じて、感情的な応酬に踏み込んでいく。しかし感情的に反論してしまったら、相手からもまわりからも、冷静な議論ができない人なんだなと思われてしまいます。結果として、自分の意見が受け入れられる確率も下がります。
むしろ「肯定」したほうが得
――では、賢い人はどう違うのでしょうか。
栗木:賢い人は、反論が必要な場面でも否定から入ることはありません。まず話を最後まで聴いて、「そうですね」「たしかにそういう部分もありますね」とむしろ肯定的な言葉で返してから、落ち着いて意見を返します。
実際、反対意見のなかにも、つねに考えるべきポイントはあります。相手の意見が誤解に基づいていたとしても、「そう聞こえる人もいるんだな」という発見があったりもします。
だから、まずは相手に集中して、いったん受け止める。それがあれば、意見の対立があったところで、議論の土台ができます。結果的に、相手も自分の意見を真剣に聞いてくれるはずです。
本書では、その効果を次のように表現しています。
ぱらぱらと画像をめくり、相手が言葉で表現している気持ちより、もっと深い心の奥底までのぞきこむことができる。
このように、話を聴くときはつねに集中しよう。
その頻度が高まるにつれて、「あの人は私のことをほんとうによくわかってくれている」と思われるようになる。
問題解決に向けた明確な目標を念頭に置いて会話に没頭すれば、「職場の対人関係が改善する」「契約を獲得できる」「昇進できる」といった見返りが得られる。――『一点集中術』
感情的な反論に労力を費やす人とは対照的に、賢い人は問題解決に集中します。その結果、人間関係が改善し、信頼が生まれ、仕事の成果や評価として返ってくるんです。
ですので、もし誰かに批判されたとき、口から「でも」や「いや」が出そうになったら、一度立ち止まってみてください。
その一言は、あなたを守っているようでいて、じつはあなたを損なっています。感情の土俵に乗ることなく、相手の思いに「一点集中」することが、仕事やプライベートを前に進める力になってくれるはずです。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)









