仕事ができる人のメールには、ある共通点がある。それは、本文に入る前の「最初の一言」だ。頭のいい人は、なぜその一言を書くのか? 18言語で話題の世界的ベストセラー『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』から、訳者の栗木さつき氏にヒントをうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

頭のいい人がメールの「最初に必ず書く」一言とは?Photo: Adobe Stock

「即レス」がベストなのか?

――仕事では、メールへの即時対応が求められがちです。しかし無限に飛び込んでくるメールを打ち返していては、「一点集中」なんてできるはずもありません。いったいどうすればよいのでしょう?

栗木さつき氏(以下、栗木):その問いは、「一点集中術」では、優先順位の問題として語られています。

「いま自分は何に集中すべきか」という優先順位がはっきりしていれば、むしろ即レスはしないほうがいいということになります。本書では、1日に3回メールの時間を決めて、まとめて打ち返すようにアドバイスしています。

――とはいえ、メールによっては「すぐに返さないと失礼ではないか」と不安になります。

栗木:そうですね。ただ、頭のいい人は「すぐ返すかどうか」よりも、どう返すか、何を伝えるかを重視しています。彼らがメールの最初に書く一言は、たんなる挨拶ではありません。

 多くの場合、そこには相手の「読む労力」を減らすための言葉が書かれています。つまり、冒頭だけ見て、メールの趣旨がわかるようにしているんです。

相手の「負荷」を減らす言葉

――具体的には、どのような一言でしょうか。

栗木:たとえば、こんな書き出しです。

「ご連絡ありがとうございます。Aの件、承知しました。進めさせていただきます。Bについては、◯◯日までに関係部署に確認のうえ、回答いたします」

 なにげない文章ですが、この冒頭を読むだけで、こちらが何を理解したのか、どの問題を受け取ったのか、いつ対応するのかが一目でわかります。いくら即レスで返事が来ても、これらの要素がごちゃごちゃとメール文に溶け込んでいたら、相手に負担をかけてしまいます。

 AやBの件について、こちらの意見や疑問、あるいは対応上の障壁がある場合は、その下に補足的に書けばいい。重要なのは、相手が最初に知りたい情報を、最初に明示することです。

 頭のいい人は、相手の時間と認知的負荷を減らそうとします。だから、「どの問題はすでに解決しているのか」「未解決の問題については、いつ答えが出るのか」を、一発でわかる形にするんです。

「重要なこと」を区別する

 情報をどう整理し、何を強調するかは、そのまま仕事の質を左右します。『一点集中術』では次のように語られています。

 ジョセフ・ジュランはジョセフ・デフェオとの共著『ジュランの品質ハンドブック』(未邦訳)のなかで、「重要な少数の法則」として「重要なものはごくわずかしかない」と説明している。

 いわく、質の高い仕事をする鍵は「些末な多数」と「ごくわずかな重要なもの」を区別することにある。
 そのためには、自分のタスクをていねいに見なおし、最重要のタスクと、とりあえず後回しにできるものとを区別するとよい。

――『一点集中術』より

 頭のいい人は、この原則をメールにもそのまま適用しています。いままさに集中すべき重要な仕事があるとき、すべての連絡に同じように時間を割くことはしません。そしてメールの文面でも、最重要のことから書き出します。

――つまり、「すぐ返さない=失礼」ではなく、即レスしなくても、相手に負荷をかけない返し方があるということですね。

栗木:はい。問題は、返事が早いか遅いかではありません。相手が「いま何がわかっていて、何がまだで、いつ次の連絡が来るのか」が見えないことです。

 だから、すぐに詳しい返事ができない場合でも、「Aは理解して進めます。Bは◯日までに確認します」と最初に書いておく。それだけで、相手は無駄に待ったり、確認したり、催促したりしなくて済みます。

 即レスをやめても、こうして最初の一言で整理して返すことができれば、自分の集中は守れるし、相手の時間も奪わない。それが『一点集中術』が勧めている、効果的なコミュニケーションなんです。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)