放射線をエネルギーに変換

 また、研究者のエカテリーナ・ダダチョワは、菌類が放射線への曝露に適応できることを発見。菌類が放射性物質の浄化や、宇宙空間での有害な放射線からの保護に役立つ可能性についての新たな研究の道を開いた。

 さらに、チェルノブイリの菌類が放射線の存在下で実際に増殖を加速させることも明らかにした。メラニンを含む菌類は、電離放射線が存在する環境下で、同じ菌類が放射線に晒されていない場合よりも著しく早く成長した。

 加えて、彼女の研究は菌類が放射線をエネルギー源として利用し、それによって代謝活動を促進させている可能性を示した。ダダチョワはこの現象を「放射合成」と呼び、菌類が放射線をエネルギー源として使用しているという理論を提唱した。

「重要なのは、菌類の成長培地には炭素や窒素といった基本的な元素は含まれていた一方、スクロースのようなエネルギー源は存在しておらず、電離放射線がエネルギー源の役割を果たし、メラニンがそのエネルギーを変換する媒体として機能していた点だ。これにより、菌類はそのエネルギーを代謝に利用できたのだ」

 ダダチョワによると、菌類は非常に古い生物であり、「地球が磁気シールドを失い、高レベルの電離放射線に晒されていた時代を生き延びた」存在だ。

「結果、菌類は放射線から身を守るためにメラニン色素を用いる方法を進化させ、メラニンをエネルギー変換媒体として利用する術を身につけた」

 さらにダダチョワの研究チームは、「特定の菌類に放射性粒子を感知させるよう『訓練』できる」ことを確認した。

 ただし、放射線をエネルギーに変換するというこの仕組みが具体的にどのように働いているのかについては、未だに解明が必要である。また、すべてのメラニン含有菌が放射線源に向かって成長するわけではないことも分かっており、未解明の点が多い。