<放射能下でも生き残れるのは、人間も持つ「あの物質」のおかげ>

 1986年4月、チェルノブイリ原子力発電所の4号炉で複数の爆発が発生し、火球となった放射性物質が大気中に放出された。この事故により、放射線が原因の病気などによって、人間や動物が多数死亡した。

 その後、炉は封じ込められ、周辺約4144平方キロメートルにわたって立入禁止区域が設けられた(ただし、科学者は特別な許可を得ることで立入可能)。

 そして、一部の科学者は炉内に黒カビが繁殖しており、それが放射性粒子を栄養源にしていることを発見した。この研究成果は、菌類が宇宙飛行士を宇宙線から守る手段としても利用できるのではないかという新たな探究につながっている。

 科学者ネリ・ジダノワは1997年の現地調査の際、チェルノブイリの事故現場で黒カビを発見した。その後、土壌サンプルの分析を通じて、炉周辺の電離放射線が多種多様な菌類を引き寄せていることに気づいた。

 ジダノワは、チェルノブイリ周辺で35種以上の菌類が生育しているのを確認。その中には、植物が太陽光に向かって成長するのと同様に、放射線に向かって成長する「放射線走性」の性質を持つものも含まれていた。

 その後の研究により、黒色の菌類が極めて強い放射線ストレスにも耐えることができるのは、メラニンという色素の存在によるものだと明らかになった。

 メラニンは人間を含む多くの生物に存在する色素であり、人間にとっては紫外線から皮膚を保護する役割を持つが、菌類においては電離放射線からの防御に機能しているようだ。