2025年に社会に大きな衝撃を与えた「フジテレビ事件」とその「第三者委員会調査報告書」をきっかけに執筆された古賀史健氏の新刊、『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』。その内容を絶賛するジャーナリスト・浜田敬子氏の推薦により、独立型オンライン報道番組「ポリタスTV」で、編集長の津田大介氏を交えての鼎談が実現しました。そのダイジェスト版を記事として5回にわたり公開する最終回です。
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ダイバーシティ推進の「揺り戻し」にどう備えるか
浜田敬子(以下、浜田) ジェンダー平等やダイバーシティを進めていった先に危惧しているのが、男性側からのバックラッシュ(揺り戻し)です。実際、トランプ政権は完全にそうだし、日本でもいま起きかけていますよね。
古賀史健(以下、古賀) はい、その流れは完全にありますね。
浜田 つまり、女性が登用されることによって、その席を奪われる男性が生まれる。あと何年で自分が課長になれると思っていたら、視界に入っていなかった女性に追い越される。そこはね、いくらダイバーシティ経営が企業の成長に繋がるとか言われも、自分のことになると、「先輩たちの時代は違ったのに」とか「なんで俺だけ」みたいな感情が生まれるのも当然だと思います。男性たちが腹の中でどう思っているのか、非常に気になるんです。
たとえば直近の選挙結果を見ても、「女は家庭で家事をしろ」みたいなことを言う政党が支持を拡大している。海外に比べてジェンダー後進国にもかかわらず、日本では男女共同参画が行き過ぎているなどと事実ではないことを言う。この状況って、どう見てますか? バックラッシュのスピードにも恐怖を感じるし、男性たちの剥脱感にどう対処すればいいのかというのが、いまとても大きな個人的テーマなんです。
津田大介(以下、津田) 僕はその問題意識って、『集団浅慮』の最終章に答えが書いてある気がするんですよね。
浜田 あー、なるほど。
津田 ネタバレにならない範囲で言うと、ここで古賀さんは「尊重」というキーワードを掲げるわけです。そして排外主義の問題とか、差別やヘイトの問題って、一般的には「寛容」が大事だよ、と言われる。でも古賀さんは「尊重」を掲げていて、僕もこの本を読んで「寛容であること」よりも「尊重すること」のほうが間口が広いんじゃないかと思わされたんですよね。
古賀 そうですね。「寛容」とか、あとはダイバーシティの文脈で語られる「包摂」って、やっぱりその人の性格や気質に依るところが大きいと思うんです。でも、「尊重」って誰にでもできるはずなんですよね。だからこそ人権尊重という概念があるんだし。この「尊重」という言葉の意味をもう一度考えなおすことが、広く「人権とはなにか?」を考えることにもなると思っています。
そうやって「尊重」の意味が理解できると、他者にも優しくなれると思うんですよ。優しくなるというか、コミュニケーションがうまくなる。たとえ対立する相手がいたとしても、「尊重」というクッションをあいだに挟んでコミュニケーションを図ることは、絶対にできると思うんです。
男性たちはもちろん、女性たちにも読んでほしい
津田 だからこれって、もちろんフェミニズムだとかジェンダーの観点から読むこともできる本だけれども、やっぱり日本社会論ですよ。
浜田 そうそう、日本の組織論でありながら、日本社会論だなと思いますね。特に男の人たちに読んでほしい。古賀さんとしてはどうですか?
古賀 もちろん管理職以上の男性たちに届けたくて書いた本なんですけど、この本のゲラが上がったときに周囲の女性たちに読んでもらったら、予想外の反応があったんですよね。「自分が苦しんでたことが全部言語化されていた」とか「いま自分が抱えている悩みが1970年代のうちから語られていたんだ。いろんな先人たちがここまで言語化してくれていたんだ」って。たしかにこの本は、フジテレビの女性アナウンサーが遭った性暴力にも触れていますし、読んでいく中でつらい箇所もあるとは思います。それでも、女性たちの背中を押すような本になっていたんだと、周囲からの感想をもらって気づかされました。
浜田 やっぱり女性たちって、そのあたりを構造的な問題と捉えずに、まずは自己責任だ、自分が悪いんだって思考になりがちなんですよね。
津田 そこは古賀さんも、かなり自分自身の反省を踏まえながら、ある意味自分を晒しながら誠実に書いていますよね。たとえば3章の終わりに、ある女性経営者にインタビューしたときのエピソードが書かれている。古賀さんが「仕事と子育ての両立はどうされているんですか?」と質問したら、「それ、男性の経営者にも聞きます?」と冷たく返されるエピソードです。あそこなんかは僕もハッとさせられましたね。
古賀 忘れられないエピソードですね。
津田 そういう古賀さんの正直さがベースにあるから、男性にも女性にも受け入れられる本になったんだと思います。
古賀 僕も決して第三者委員会が指摘した「同質性の高い壮年男性」を責めるような、上から正義を振りかざすようなつもりはまったくないんです。やっぱり僕もフジテレビの番組が好きな人間だったし、フジテレビ的な価値観を持っている男性だし、だからこそ今回の調査報告書にこれだけの衝撃を受けたわけで。そして冒頭で津田さんと同い年だという話をしましたけど、僕らって団塊ジュニアのボリュームゾーンなんですよね。だからこそ、僕らの世代で片づけておかないといけないテーマはたくさんあると思っています。それはジェンダー平等しかり、男性中心の社会に根づくミソジニー的な価値観しかり、ホモソーシャル的なノリしかり。
津田 そういう議論の出発点になるような、そして長く教科書となるような本として、たくさんの人に届いてほしいですね。今日はどうもありがとうございました。
浜田・古賀 どうもありがとうございました。
ポリタス編集長/ポリタスTVキャスター
メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆・取材活動を行う。著書多数。
ジャーナリスト
前Business Insider Japan統括編集長。元アエラ編集長。著書に『男性中心企業の終焉』など。「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」でコメンテーターも務める。








